Dear My Star
幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。
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毎週月曜はなっちゃんの日!
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Dear My Star番外編
テトリスの攻略法
鞄に授業の用意を詰めて、鏡で身だしなみを整える。
今日も元気に地味であることに満足し、冴は鞄のほかにもう一つ――欠食児童たちに与える手作り弁当が包まれた風呂敷を持って、部屋を出た。
何度も味わっている重さだが相変わらず殺意を覚える重さである。
しかし今は、ひとまず寮の玄関まで運べればいいのだ。
何故なら。
「あ」
「おはようございます、冴ちゃん」
そこにはすでに那月が冴を待っていた。
駆け寄りたいところだが荷物の重さがそうさせてはくれず、なんとか那月の傍まで歩いてからにっこりと笑顔を返す。
「おはよう、なっちゃん。朝からごめんね?」
「いえいえ、これくらいなんてことありませんよ」
そう、冴が初めてみんなに弁当を作っていったとき、ピーマンを残そうとした音也への嫌味ついでに重箱があまりに重いとぼやいたところ、那月が荷物持ちに名乗りを上げてくれたのだ。
毎週月曜日に朝から重い思いをして学校に行くことにやや遠い目をしていた冴にはありがたい申し出だったので、思わず二つ返事でお願いしてしまった。これが翔や音也だったらいいのだが、那月になるとちょっと申し訳ないと思ってしまうから不思議だ。やはり日ごろの行いと云うのは大事なのである。
今だってさりげなく冴が荷物を持つ距離を縮めるために、わざわざ靴箱の傍まで来てくれている。
嫌味にならない紳士的な行動をしてくれる那月は冴の中で癒し系の認定をされていた。
きっとそのことを云っても気にしないでと彼は笑うだろうから、冴はにっこりと微笑んで。
「今日は、なっちゃんが食べたいって云ってたエビフライがメインだからね」
「わ、本当ですか? 嬉しいなぁ」
みんな冴の弁当はおいしいと云ってくれるが、中でも那月が一番幸せそうに食べてくれるのが冴も嬉しかった。以前はとある同僚がなんでもおいしそうに食べてくれていたのが嬉しくてよくお弁当の差し入れをしていたが、やはり料理は食べてくれる相手がいてなんぼである。
さすが男の子と云うべきか、冴が一生懸命運んだ重箱をひょいと持つと、那月は冴と並んでゆっくり歩き出した。
身長差の関係でどう考えても那月の方が歩く速度が速いはずなのに、冴が特に急ぐこともなくふたりは同じ歩調で歩いている。那月が冴に合わせてくれているのだ。
優しいなぁ、と思う。
思わず笑顔になると、同じく笑顔を返してくれた那月が口を開いた。
「いつも思ってたんですが、冴ちゃんの料理は、優しい味がしますよね」
「・・・優しい味?」
「はい。とっても優しい味」
冴ちゃんみたいですね、と笑う那月が眩しかった。
冴にとって料理はストレス発散の手段だったが、こうやっておいしいと、優しい味だと褒められると本当に嬉しい。
料理も楽しいし、もっとおいしいものを作って食べてもらいたいと思うのだ。
那月はきっと意識していないが、那月の言葉はいつも冴の心にすとんと落ち着いて、冴を喜ばせていた。
何気ない言葉、何気ない行動。
翔とはまた違う、冴にとって大切で重要な友人だった。
「リクエストあったらどんどん云ってね。頑張って作っちゃうから!」
「はい。楽しみにしてます」
ふんわりと笑う那月に、冴も同じように微笑み返した。
*****
それからふたりはしばらく他愛のない話をしていたが、途中思いついたように話題を変えたのは那月だった。
「さっきの話なんですけど」
「ん、何?」
ゆっくり目に歩いていたのでいつもよりは随分時間がかかっているが、もうすぐ学校に到着しようかという頃合い。
リクエストとはちょっと違うけど、と前置きしてから那月は云った。
「僕も今度、冴ちゃんの曲を唄いたいなって」
「・・・私の?」
「はい。実はこの前、冴ちゃんが作った曲を全部聴きました」
普段は授業などで使われている視聴覚室には開放日があり、その日は誰でも自由に使用できることになっている。自分のクラスにとどまらず、全クラスの曲や唄を共有できるようにという学園側の配慮だ。
それを利用してなんとなく訪れたのだが、そのときに那月は冴の曲に出会った。
最初に聴いたのは翔が唄うバラードで、他の生徒が唄ったものやBGMもすべて聴いた。
同じAクラスである春歌の曲も素晴らしいものばかりだと思ったが、冴の曲はそれ以上に那月を奮い立たせるものがあったのだ。
唄いたい、と強く思った。
クラスが違うためにおいそれとペアになる機会がないのが悔やまれるほど、那月は冴の曲を唄いたいと思った。
授業でのペアは難しいし、どうしたものかと思っていたところに冴とこうして会話する機会を得、わずかな期待で口にしてみた希望。課題は山ほどあるし、しかも冴はSクラスだ。課題で求められるレベルは他のクラスと比べ物にならないだろう。課題以外の曲に割いている時間などないかもしれない。
なかなか答えない冴に不安になってちらりと様子を伺うと。
「―――いいよ!」
冴は嬉しそうに笑っていた。
「え」
「どんな曲がいい? それとも勝手に作っていいの?」
「お、お任せします」
「よし! じゃあ楽しみにしててね!」
あまりにあっさりと承諾された希望に、那月は呆然として固まってしまった。
「ありがとうね、なっちゃん」
少し高いところにある那月の顔を見て、冴は笑った。
見られた那月は冴の言葉の意味を理解できず――というか何に対する感謝なのかがわからず、首を傾げる。
そんな那月に、冴は目を細めて。
「私の曲を唄いたいって云ってもらえるの、すごく嬉しい」
まだ数回食堂で一緒になっただけの友達だ。
那月にとっては同室者の友人で、冴にとっては友人の同室者。
たったそれだけなのに、随分と大切なもののように思えるのは、きっとお互いが求めるものが一致しているからなのだろう。
作曲者としての冴と、アイドルとしての那月。学園を卒業するためには必要不可欠な一対の存在が揃っているのだ。
自分の作った曲を唄いたいと云ってもらえるのは作曲者としてこれ以上ないほどの言葉だし、冴も友人である那月に自分の唄ってもらいたいと思える。
嬉しかった。
何より、数多くいる作曲家コースの中でも、とりわけ春歌というクラスメイトがいる那月が、冴の曲を唄いたいと云ってくれるのが。
冴には途轍もなく嬉しいことだった。
「なっちゃんのための曲、頑張って作るからね」
「・・・楽しみにしてますね」
任せて、とガッツポーズを作る冴に、那月は微笑む。
思わず手を伸ばし、冴の頭を撫でた。
翔よりは少し大きいが、それでも那月に比べると冴は小さい。
同い年らしいが、小さくて可愛いものが大好きな那月からしてみれば冴も十分愛でる対象だ。
パッと見はひどく地味だが冴は笑うと可愛らしいし、那月は冴の綺麗な目が好きだった。やや明るい茶色の眼が笑うとそっと細められるのはとても魅力的だと思う。
しかも、こんなふうに微笑まれては。
すると。
「・・・・・・う」
一瞬驚いたように冴は大きく目を見開き。
それから、徐々に顔を赤く染めてしまった。
おや、と思う。
これは予想外の反応だった。
「あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」
「や、違う違う。ちょっとびっくりしただけ」
慌てて首を振る冴は、困ったように眉尻を下げて頬をかいた。
「頭撫でられたの、久しぶりで」
だから、と云う冴は照れ臭そうだった。
確かにこの年になって頭を撫でられるという機会はそうそうないだろう。
考えてみれば那月だって、最後に頭を撫でられた記憶など遠い昔だ。撫でる側にだったらほぼ毎日立っているので忘れていたが、もしかしたらこの年になって頭を撫でられるというのは気恥ずかしいものがあるのかもしれない。
けれど冴は可愛い。
何度も云うが見た目は地味かもしれないが笑顔は可愛いし、愛想もいい。他の女子とは違って落ち着いているし、かといってノリが悪いわけでもない。
那月の可愛いものセンサーにばっちり反応してしまう冴のことをいつものノリで抱き締めていないことが自分でも異常だと思えるくらいには冴は可愛いのである。
照れている姿もまた可愛い、と云ったら、冴は怒るだろうか。
そんなことを考えながら、那月もまた笑う。
「ふふ、冴ちゃんは可愛いから、ついついこうしたくなっちゃいました」
「もー、なっちゃんはうまいんだから」
冴は普段しっかり者だ。たとえ傍に年長者がいたとしても子ども扱いされることも少ないので、余計に頭を撫でられることなど久しくて慣れていない。
いつもの笑顔で云う那月を冴は軽く睨み付けた。しかし、顔はまだ赤いままでリスのようにほっぺたに空気を入れて睨まれても怖くはない。
その様子が更に可愛くて那月が笑みを深めると、冴はツンと正面を向いてしまった。これ以上機嫌を損ねないように頑張って笑顔を抑える努力をしながら那月は云う。努力が実ったかどうかわわからないが。
「・・・嫌ですか?」
もう十分わかることだが、那月は冴を可愛いと思っている。今までは翔が一番可愛いと思っていた。けれどきっと冴も、同じかそれ以上に可愛い。
そんな冴を愛でたい気持ちはいっぱいあるが、もしも本気で嫌ならば抑えなければならないということもわかっている。可愛い子に嫌われるのは、本望ではないのだ。
知らず知らずのうちに、しょげた顔をしてしまっていたらしい。
那月の顔を見た冴は、慌てたように首を振った。
「違うの。嫌じゃないよ。全然!」
冗談に笑って返すように笑えればよかったのに、自分よりもずっと背の高い那月に優しく微笑まれて頭まで撫でられて、なんだか恥ずかしくなってしまったのだ。
背の高い人特有の威圧感もなく、那月の笑顔はなんだか心地がいい。
「ただちょっと恥ずかしいってだけでね、うん。嫌じゃないんだよ?」
たった数回話しただけなのに、冴は那月と一緒にいることが落ち着けるし自分に安らぎを与えていることを確信していた。
月曜の朝から面倒な荷物持ちを名乗り出てくれたし、自分の唄を気に入って唄いたいとまで云ってくれた那月は優しい。
そんな那月に悲しげな顔をされてはいい気分などしないし、実際嫌なわけでもなかったので全力で否定すると、途端にパッと那月は顔を明るくした。
「じゃあ、これからも僕が良い子良い子してあげますね!」
「ちょ、私なっちゃんと同い年だよ!? 子ども扱いかー!」
照れ隠しに怒る冴冴、那月は思わず笑った。
反応が翔にそっくりだったのだ。
あれでいて付き合う人を選ぶ傾向のある翔が、やけに冴に懐いていると思ったらこういうことか、と那月は納得した。
ふたりは根本がそっくりなのだ。
それをお互い気付いているのかどうかは知らないが、惹かれる理由はそこだろう。
やっぱり、可愛い。
もう校内だし抱き締めるのは自制したが、頭に伸ばしてしまった手を止めることは出来なかった。
またさっきのように冴の頭を撫でると、冴はむず痒そうに笑っていた。
「冴ちゃん、本当に可愛いですねぇ」
「はいはい、どうせ私は翔サイズですよ!」
「そういう意味じゃないんですけど・・・というかそれ、翔ちゃんが聞いたら怒りそう」
「いいよ、怒らせとこう」
真顔で云った冴を見つめて、数秒。
那月と冴は、同時に噴き出した。
もう教室は目の前である。
何事もなければ毎週続く、冴との登校日。
荷物持ちを立候補してよかったと、那月は心底思った。
下積みは大事ですという話。計算高いなっちゃんモエー
しっかり約束も取り付けてますね! ただしまだこの時点では卒業オーディションのペアに、までは考えてないと思います・・・多分
話が詰め込みすぎて。うえwww もうちょっと考えろ私(笑)
20120724
テトリスの攻略法
鞄に授業の用意を詰めて、鏡で身だしなみを整える。
今日も元気に地味であることに満足し、冴は鞄のほかにもう一つ――欠食児童たちに与える手作り弁当が包まれた風呂敷を持って、部屋を出た。
何度も味わっている重さだが相変わらず殺意を覚える重さである。
しかし今は、ひとまず寮の玄関まで運べればいいのだ。
何故なら。
「あ」
「おはようございます、冴ちゃん」
そこにはすでに那月が冴を待っていた。
駆け寄りたいところだが荷物の重さがそうさせてはくれず、なんとか那月の傍まで歩いてからにっこりと笑顔を返す。
「おはよう、なっちゃん。朝からごめんね?」
「いえいえ、これくらいなんてことありませんよ」
そう、冴が初めてみんなに弁当を作っていったとき、ピーマンを残そうとした音也への嫌味ついでに重箱があまりに重いとぼやいたところ、那月が荷物持ちに名乗りを上げてくれたのだ。
毎週月曜日に朝から重い思いをして学校に行くことにやや遠い目をしていた冴にはありがたい申し出だったので、思わず二つ返事でお願いしてしまった。これが翔や音也だったらいいのだが、那月になるとちょっと申し訳ないと思ってしまうから不思議だ。やはり日ごろの行いと云うのは大事なのである。
今だってさりげなく冴が荷物を持つ距離を縮めるために、わざわざ靴箱の傍まで来てくれている。
嫌味にならない紳士的な行動をしてくれる那月は冴の中で癒し系の認定をされていた。
きっとそのことを云っても気にしないでと彼は笑うだろうから、冴はにっこりと微笑んで。
「今日は、なっちゃんが食べたいって云ってたエビフライがメインだからね」
「わ、本当ですか? 嬉しいなぁ」
みんな冴の弁当はおいしいと云ってくれるが、中でも那月が一番幸せそうに食べてくれるのが冴も嬉しかった。以前はとある同僚がなんでもおいしそうに食べてくれていたのが嬉しくてよくお弁当の差し入れをしていたが、やはり料理は食べてくれる相手がいてなんぼである。
さすが男の子と云うべきか、冴が一生懸命運んだ重箱をひょいと持つと、那月は冴と並んでゆっくり歩き出した。
身長差の関係でどう考えても那月の方が歩く速度が速いはずなのに、冴が特に急ぐこともなくふたりは同じ歩調で歩いている。那月が冴に合わせてくれているのだ。
優しいなぁ、と思う。
思わず笑顔になると、同じく笑顔を返してくれた那月が口を開いた。
「いつも思ってたんですが、冴ちゃんの料理は、優しい味がしますよね」
「・・・優しい味?」
「はい。とっても優しい味」
冴ちゃんみたいですね、と笑う那月が眩しかった。
冴にとって料理はストレス発散の手段だったが、こうやっておいしいと、優しい味だと褒められると本当に嬉しい。
料理も楽しいし、もっとおいしいものを作って食べてもらいたいと思うのだ。
那月はきっと意識していないが、那月の言葉はいつも冴の心にすとんと落ち着いて、冴を喜ばせていた。
何気ない言葉、何気ない行動。
翔とはまた違う、冴にとって大切で重要な友人だった。
「リクエストあったらどんどん云ってね。頑張って作っちゃうから!」
「はい。楽しみにしてます」
ふんわりと笑う那月に、冴も同じように微笑み返した。
*****
それからふたりはしばらく他愛のない話をしていたが、途中思いついたように話題を変えたのは那月だった。
「さっきの話なんですけど」
「ん、何?」
ゆっくり目に歩いていたのでいつもよりは随分時間がかかっているが、もうすぐ学校に到着しようかという頃合い。
リクエストとはちょっと違うけど、と前置きしてから那月は云った。
「僕も今度、冴ちゃんの曲を唄いたいなって」
「・・・私の?」
「はい。実はこの前、冴ちゃんが作った曲を全部聴きました」
普段は授業などで使われている視聴覚室には開放日があり、その日は誰でも自由に使用できることになっている。自分のクラスにとどまらず、全クラスの曲や唄を共有できるようにという学園側の配慮だ。
それを利用してなんとなく訪れたのだが、そのときに那月は冴の曲に出会った。
最初に聴いたのは翔が唄うバラードで、他の生徒が唄ったものやBGMもすべて聴いた。
同じAクラスである春歌の曲も素晴らしいものばかりだと思ったが、冴の曲はそれ以上に那月を奮い立たせるものがあったのだ。
唄いたい、と強く思った。
クラスが違うためにおいそれとペアになる機会がないのが悔やまれるほど、那月は冴の曲を唄いたいと思った。
授業でのペアは難しいし、どうしたものかと思っていたところに冴とこうして会話する機会を得、わずかな期待で口にしてみた希望。課題は山ほどあるし、しかも冴はSクラスだ。課題で求められるレベルは他のクラスと比べ物にならないだろう。課題以外の曲に割いている時間などないかもしれない。
なかなか答えない冴に不安になってちらりと様子を伺うと。
「―――いいよ!」
冴は嬉しそうに笑っていた。
「え」
「どんな曲がいい? それとも勝手に作っていいの?」
「お、お任せします」
「よし! じゃあ楽しみにしててね!」
あまりにあっさりと承諾された希望に、那月は呆然として固まってしまった。
「ありがとうね、なっちゃん」
少し高いところにある那月の顔を見て、冴は笑った。
見られた那月は冴の言葉の意味を理解できず――というか何に対する感謝なのかがわからず、首を傾げる。
そんな那月に、冴は目を細めて。
「私の曲を唄いたいって云ってもらえるの、すごく嬉しい」
まだ数回食堂で一緒になっただけの友達だ。
那月にとっては同室者の友人で、冴にとっては友人の同室者。
たったそれだけなのに、随分と大切なもののように思えるのは、きっとお互いが求めるものが一致しているからなのだろう。
作曲者としての冴と、アイドルとしての那月。学園を卒業するためには必要不可欠な一対の存在が揃っているのだ。
自分の作った曲を唄いたいと云ってもらえるのは作曲者としてこれ以上ないほどの言葉だし、冴も友人である那月に自分の唄ってもらいたいと思える。
嬉しかった。
何より、数多くいる作曲家コースの中でも、とりわけ春歌というクラスメイトがいる那月が、冴の曲を唄いたいと云ってくれるのが。
冴には途轍もなく嬉しいことだった。
「なっちゃんのための曲、頑張って作るからね」
「・・・楽しみにしてますね」
任せて、とガッツポーズを作る冴に、那月は微笑む。
思わず手を伸ばし、冴の頭を撫でた。
翔よりは少し大きいが、それでも那月に比べると冴は小さい。
同い年らしいが、小さくて可愛いものが大好きな那月からしてみれば冴も十分愛でる対象だ。
パッと見はひどく地味だが冴は笑うと可愛らしいし、那月は冴の綺麗な目が好きだった。やや明るい茶色の眼が笑うとそっと細められるのはとても魅力的だと思う。
しかも、こんなふうに微笑まれては。
すると。
「・・・・・・う」
一瞬驚いたように冴は大きく目を見開き。
それから、徐々に顔を赤く染めてしまった。
おや、と思う。
これは予想外の反応だった。
「あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」
「や、違う違う。ちょっとびっくりしただけ」
慌てて首を振る冴は、困ったように眉尻を下げて頬をかいた。
「頭撫でられたの、久しぶりで」
だから、と云う冴は照れ臭そうだった。
確かにこの年になって頭を撫でられるという機会はそうそうないだろう。
考えてみれば那月だって、最後に頭を撫でられた記憶など遠い昔だ。撫でる側にだったらほぼ毎日立っているので忘れていたが、もしかしたらこの年になって頭を撫でられるというのは気恥ずかしいものがあるのかもしれない。
けれど冴は可愛い。
何度も云うが見た目は地味かもしれないが笑顔は可愛いし、愛想もいい。他の女子とは違って落ち着いているし、かといってノリが悪いわけでもない。
那月の可愛いものセンサーにばっちり反応してしまう冴のことをいつものノリで抱き締めていないことが自分でも異常だと思えるくらいには冴は可愛いのである。
照れている姿もまた可愛い、と云ったら、冴は怒るだろうか。
そんなことを考えながら、那月もまた笑う。
「ふふ、冴ちゃんは可愛いから、ついついこうしたくなっちゃいました」
「もー、なっちゃんはうまいんだから」
冴は普段しっかり者だ。たとえ傍に年長者がいたとしても子ども扱いされることも少ないので、余計に頭を撫でられることなど久しくて慣れていない。
いつもの笑顔で云う那月を冴は軽く睨み付けた。しかし、顔はまだ赤いままでリスのようにほっぺたに空気を入れて睨まれても怖くはない。
その様子が更に可愛くて那月が笑みを深めると、冴はツンと正面を向いてしまった。これ以上機嫌を損ねないように頑張って笑顔を抑える努力をしながら那月は云う。努力が実ったかどうかわわからないが。
「・・・嫌ですか?」
もう十分わかることだが、那月は冴を可愛いと思っている。今までは翔が一番可愛いと思っていた。けれどきっと冴も、同じかそれ以上に可愛い。
そんな冴を愛でたい気持ちはいっぱいあるが、もしも本気で嫌ならば抑えなければならないということもわかっている。可愛い子に嫌われるのは、本望ではないのだ。
知らず知らずのうちに、しょげた顔をしてしまっていたらしい。
那月の顔を見た冴は、慌てたように首を振った。
「違うの。嫌じゃないよ。全然!」
冗談に笑って返すように笑えればよかったのに、自分よりもずっと背の高い那月に優しく微笑まれて頭まで撫でられて、なんだか恥ずかしくなってしまったのだ。
背の高い人特有の威圧感もなく、那月の笑顔はなんだか心地がいい。
「ただちょっと恥ずかしいってだけでね、うん。嫌じゃないんだよ?」
たった数回話しただけなのに、冴は那月と一緒にいることが落ち着けるし自分に安らぎを与えていることを確信していた。
月曜の朝から面倒な荷物持ちを名乗り出てくれたし、自分の唄を気に入って唄いたいとまで云ってくれた那月は優しい。
そんな那月に悲しげな顔をされてはいい気分などしないし、実際嫌なわけでもなかったので全力で否定すると、途端にパッと那月は顔を明るくした。
「じゃあ、これからも僕が良い子良い子してあげますね!」
「ちょ、私なっちゃんと同い年だよ!? 子ども扱いかー!」
照れ隠しに怒る冴冴、那月は思わず笑った。
反応が翔にそっくりだったのだ。
あれでいて付き合う人を選ぶ傾向のある翔が、やけに冴に懐いていると思ったらこういうことか、と那月は納得した。
ふたりは根本がそっくりなのだ。
それをお互い気付いているのかどうかは知らないが、惹かれる理由はそこだろう。
やっぱり、可愛い。
もう校内だし抱き締めるのは自制したが、頭に伸ばしてしまった手を止めることは出来なかった。
またさっきのように冴の頭を撫でると、冴はむず痒そうに笑っていた。
「冴ちゃん、本当に可愛いですねぇ」
「はいはい、どうせ私は翔サイズですよ!」
「そういう意味じゃないんですけど・・・というかそれ、翔ちゃんが聞いたら怒りそう」
「いいよ、怒らせとこう」
真顔で云った冴を見つめて、数秒。
那月と冴は、同時に噴き出した。
もう教室は目の前である。
何事もなければ毎週続く、冴との登校日。
荷物持ちを立候補してよかったと、那月は心底思った。
下積みは大事ですという話。計算高いなっちゃんモエー
しっかり約束も取り付けてますね! ただしまだこの時点では卒業オーディションのペアに、までは考えてないと思います・・・多分
話が詰め込みすぎて。うえwww もうちょっと考えろ私(笑)
20120724
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