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Dear My Star

幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。

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言葉にして、果たして伝わるのでしょうか




+++++
ありがとう。
感謝の言葉をいくら並べても、きっとあなたには伝わらない。
私が、どんなに感謝しているか。

伝えきれるはずが、ないの。





Dear My Star番外編

君が生まれた日





「え?」
「・・・そんなに驚くことかい?」
レンが口にした事実に、冴は驚いて目を丸くした。
冴のそんな顔は珍しくてレンは軽く首を傾げる。おかしな話をしたつもりはなかったのだけれど。

いつも通り、レッスン室での練習の合間だった。
卒業オーディションまでひと月を切り、曲も完成している。あとはもっと練習を重ねるだけだが、あまり根を詰めすぎても喉の支障を来しかねない。適度な休憩を挟みながら、休憩中に交わされる会話も曲についてのことだった。
そんななか、ふとレンは思い出す。
明日は2月14日。
自分の誕生日だった。
しかし世間的にはバレンタインデーと云う某お菓子会社の陰謀渦巻く祭典が跋扈しており、意外とレンの誕生日だということは知られていない。
レンはこれでいて自分の誕生日をアピールしない性格だし、アイドルとしてデビューしてからは別だろうが、今はただの学生だ。クリスマスが誕生日なのと同じような扱いで、当日レンの誕生日であることを知った女子はそのままバレンタインチョコが誕生日プレゼント、というのが当たり前になっていた。
チョコレートがあまり得意ではないレンとしては悲しいのだが、それを世の中のレディたちに告げる勇気がない彼はそれを甘んじている。そんなキャラを演じているので自業自得といえばその通りだが、些か虚しい気もする。

恋愛禁止の早乙女学園在住である以上、恋人同士であるとは云えないし、実際レンも冴も自分たちが付き合っているとも思っていない。
ただし、お互いが特別であるという自覚はある。
そんな相手に誕生日を祝ってもらいたい――プレゼントとは云わなくとも、祝いの言葉くらいは貰いたいと思うのは当然で、しかし先にも云ったように世間はバレンタインデーで。
冴がそんなイベントに精を出すとは思えないし、ついでに自分の誕生日だと知っているとも思えなかったので、休憩中の話題にと口にしただけだった。
どうせ冷たくあしらわれて卒業オーディションに集中しろと小言を云われると思っていたのだが、予想とは違う反応に戸惑ったのはレンのほうだ。

「俺も一応人の子だから、誕生日くらいあるんだけどな?」
「そ、そうじゃなくて」
そういう意味じゃなくて、と首を振る冴はなんだか酷く狼狽しているようだった。
そんなに意外だろうか。
確かにレンの誕生日がバレンタインデーというのは意外というか、ある意味ぴったりでなんとも云えない気持ちは遺憾ながらわかるのだけれど。
唖然とするほどのことだろうか、と思うのは仕方がないと思う。
「・・・明日、なんだ」
「そうだよ?」
「・・・そっか」
何故か気の抜けたように呟いた冴は明らかにいつもと様子が違っていた。
くだらないと一蹴するでもない、かといっておめでたいことだというわけでもない。
呆然、唖然。
言葉を無くすというのはまさにこの状況だとレンは思った。
レンもそれ以上何を云っていいかわからず、黙って冴の次の反応を待っていた。

時間にしてみれば数十秒だが、とても長く感じられた沈黙の後。
「あのね」
一度口を開いた冴は、しかし閉じる。
何度かそれを繰り返して意を決したようにレンを見た。
「明日は」
レンが目で先を促すと、ごめんね、怒らないでね、と冴が前置く。
いつもの彼女らしからぬもったいつけ方に疑問は更に深まるが、怒らないよ、とレンは微笑んで。
その笑顔に漸くホッとしたように息をついた冴は、しかし、次の瞬間には泣き出しそうに眉尻下げて、云った。

「明日は、母さんと、弟になるはずだった子の命日なの」

その、言葉に。
レンは息を飲んだ。
冴の母親が亡くなっていること、弟となるはずだった存在も同時に亡くしていたことは知っていた。
けれどその命日までは知らなくて。
―――ましてやそれが、自分の誕生日と同じだなんて、夢にも思わなくて。

「だから毎年、寂しくて悲しかった」

自分の指先を見つめながら云う冴を、レンは見ていられなかった。
後悔ばかりが頭を支配する。
知らなかったとはいえ、酷いことをしたと思う。
自分の誕生日を祝ってもらいたいと思ったことでこんなに罪悪感を抱くことになるとは。

「私は今でも、病院から電話をもらったときのことを忘れてない」

そっと冴は目を閉じた。
もう何年も前のことだが、冴はあのときのことを鮮明に覚えている。

「苦しかった」

電話をもらって、病院に駆け付けたときはもうすべて遅かった。
息を切らせて病室に入って、背筋が凍るほどの絶望感を味わった。

「辛かった」

力不足でした、と謝罪する医師。
静かに涙を流す、父親。
呆然と立ち尽くすしかなかった、自分。

「だから毎年、明日が嫌いだった」

大切な人を失った日を好きになれる人なんてきっといない。
ましてやそのとき立ち会うことも出来なかったのだから。

どうして、と云っても誰も答えてくれず。
そっと触れた母はもう二度と目を開けてくれず。
零れ落ちた涙を、その優しく暖かな手で拭ってくれることも、一生ない。
気付いた瞬間どうしようもなく苦しくて、声を上げて泣いた。
思えば、声を上げて泣いたのはあの日が最後かもしれない。

大嫌いだった。
毎年訪れる2月14日という日が大嫌いで、この世から失くなってしまえばいいとさえ思っていた。
「でも」
けれど。
「・・・レンは、その日に生まれたんだ・・・」
大嫌いだった2月14日。
今年も陰鬱とした一日を過ごすのだろうと思っていた。
「・・・そっかぁ」
けれど。
けれど、これはなんという奇跡だろうと冴は思う。

「―――ありがとう」

唄のためだけに入学したこの学園で、レンという存在に出会えたこと。
恋なんてしないと思っていた。
自分にとって大切なのは唄うことで、その唄をたくさんの人に聴いてもらうことで。
父親に認めてもらうことで、早乙女に恩を返すことで。
それだけを考えて行こうと思っていたのに、その中に入ってきたレンという暖かな存在に、冴は言葉に出来ないほど助けられてきた。
好きだと思う。
唄と比べるなんて出来ない。
どちらも冴には必要なものだから。
そう思えるくらいに、冴はレンのことを好きだった。
そんな人が。
「ありがとうね、レン」
そんな人が、大嫌いだった2月14日にこの世に生まれたのだ。
なんの因果なのだろう。
どんな神様の悪戯なのだろう。

大嫌いだ。

大嫌いだった。

毎年毎年ひとりで泣いて過ごしていた、大切な人がいなくなった日。

そんな日に、今の自分を支えてくれる存在が生まれたという。

それは酷く―――素敵なことではないのだろうか。

「あなたが、2月14日に生まれてくれて、嬉しい」



ねえ、レン。
わかる?
大嫌いだったのよ、私。
明日が来なければいいと、ずっと思っていたの。
だって私の大切な人をふたりも奪った、最低の日だったから。
ねぇ、レン。
だけど、明日なのね。
あなたは18年前の明日、生まれたのね。
嫌いだったわ。
どうしようもないほど、嫌いだった。
だった、だった。
ねえ、レン。
わかる?
過去形よ。

だって、あなたが生まれた日が嫌いだなんて、そんなこと、あるわけないでしょう?



「私もう、明日が嫌いじゃないわ」

重なったレンの手に、もう一方の自分の手を重ねる。
ふと顔を上げると、レンが泣きそうな顔で自分を見ていた。
それが何故かおかしくて、笑う。
笑った瞬間涙が零れ落ちた。



お誕生日、おめでとうございます。





大切な人の命日と、大切な人の誕生日が同じって、私は素敵だなって思います。
うまく言葉に出来ないけど。
素敵じゃないでしょうか。

過ぎたけど!
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