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Dear My Star

幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。

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終着点が全員デビュー後になってきたのでこれはいっそ連載と銘打たないほうがいいような気がしてきたけどまだしばらくは貫いてみる

ぶち切れております



+++++
子役になったのは母の希望だった。4歳のときだったと思う。
確か、ブライダルのCMで花嫁に花を渡す子役の募集を見た母が勝手に応募して、オーディションを受けたら受かってしまったのだ。
実は父親が有名人なので、母方の名字で応募して、二番目の候補だったという『まどか』という名前でデビューした。
最初父はいい顔をしなかったけれど、楽しいならそれでいい、と最終的には許してくれた。
元から素質があったのか、子どもながらにしっかりとした演技と声に評価をもらって本格的に芸能界デビューを目指すことになったときは、家族3人で喜んだ。
2年で立派な子役として有名になり、テレビはもちろん舞台などに出演することもあった。
学校には満足に通えなかったが、それでも楽しかった。
大きくなったら父の曲を唄いたいと云ったら母は大はしゃぎしたし、父も照れくさそうに笑ってくれた。
まだまだうまくは唄えないから、きっといつか、と。

ずっと、楽しかったのだ。

芸能界に入って3年目、母が男の子を妊娠した。
新しい家族が出来るという事実は自分を奮い立たせる要素になったし、いつか生まれてきた弟と一緒に唄ったり出来たら嬉しい、とそんなことを考えながら芸能活動を続けていた。
ちょっと特殊な、だけど当たり前だった日常。

それが突然崩れることがあるなんて、幼かった私は知らなかったのだ。





Dear My Star

03.我慢の限界





課題で作られた曲、唄はクラスに関係なく生徒全員が共有することが出来る。
盗作はもってのほかだが、他の生徒が作った曲から学べることもあるが故に採用されているシステムだ。

―――バンッ!!

視聴覚室に籠ってトキヤの唄を聴いていたは、思わず机を平手で叩いていた。幸いにして誰もいなかったが、もしかしたら廊下を歩いていた生徒には聞こえたかもしれない。
しかし今のにそんなことはどうでもよかった。

一之瀬トキヤ。
双子と偽っているだけの、HAYATO本人。
心のない唄を続けていたためにSクラスからAクラスに異動になった、の目標のための希望。
クラスが変わってしまってからは耳にしていなかった彼の唄声は、やはり変わっていなかった。
どうしてクラスを変えられたのか、彼はわかっていないのだろうか。
そんなはずはない。
3か月だけだったが冴はトキヤとクラスメイトだったのだ。
彼がそんな馬鹿でないことはわかっている。
ならば、何故。

歯がゆかった。
それと同時に、腹立たしかった。
実力があるのだ、彼には。
それなのに。
どうして。
そう考えると酷くイライラしてきて、はもう一度机を叩きつけた。
そして、これ以上彼の唄を聴いていてはどうしようもないほど何かに八つ当たりしてしまいそうだと思ったのでさっさと視聴覚室を後にすることにする。
にだってやるべき課題はあるし、他にも作曲したいものはある。
イライラするだけのトキヤの唄など、聴いている暇はないのだ。

荷物をまとめて視聴覚室を出、図書室にでも行こうと足を向けた。あそこなら気分転換になる本も読めるし、気ままに作詞なども出来る。
一般では手に入らないような書籍や海外の珍しい本も置いてある図書館がはお気に入りだった。
それに時折一緒になる春歌はこの3か月で目覚ましく成長しているし、教えるのが楽しいのだ。
春歌の音楽に対する想いはとも似ていて、是非もっと頑張ってほしいと思っている。
今日、彼女はいるだろうか。
そんなことを思いながら歩いているの耳に、唄が聴こえてきた。
知っている。
この声は。

音楽学校だけあって、早乙女学園の防音設備は優れている。
しかし、扉の前にいればかすかに聴こえてしまうのも事実であって。
冴は今ちょうどレッスン室の前を通っているところだった。
課題をこなすために生徒が使用するのはよくあることで、申請さえすれば誰でも使うことが出来る。
数多くの部屋の中から、の耳はひとつの声を拾っていた。

そして。

「・・・・・・ッ!!!」

もう、我慢の限界だった。





ノックもせずに扉を開ける。
当然中にいた人物は驚いて振り返り、何故かいきなり怒髪天をついているのが一目でわかるを見てさらに驚くことになる。
何故、という疑問は口にする暇はなかった。
ツカツカと遠慮なく部屋に入ってきたは、彼の――トキヤの胸ぐらを掴んだ。

「あんた、一体どういうつもりなの」

とトキヤは別に親しいわけではない。
確かに何度かペアを組んだことはあるが、トキヤはわざわざ人に歩み寄るような性格ではなかったし、も期待外れな唄しか唄えないトキヤと仲良くなろうとは思っていなかった。
それでも課題で高評価を得られたのは、ひとえにの才能だ。
プロになれば、好き嫌いで仕事など選べない。
誰に対しても、どんな人物に対しても最高の曲を提供しなければならないのが仕事なのだから。
だから、これまでふたりが交わした会話は課題についてくらいしかない。
お互いに好きなものも嫌いなものも知らないし、音楽以外の共通点などないはずだった。
つまり、いきなり胸ぐらを掴まれる心当たりなどトキヤにはなかったのだ。

「そんな唄ばっかり唄って、なんなの? 馬鹿にしてるの?」
「・・・どういう意味です」
「私が云ってる意味がわからないんだったら、あんたどうしようもないわ。とっとと学校辞めなさい」
「!!」
の言葉は一切の容赦がなかった。
こんなことを云われる筋合いはないと、トキヤは思う。思うのだが、反論出来なかった。
本当は、わかっているから。
わかってしまっているから。
自分の唄が、評価されない理由が、トキヤにはわかっているから。

クラスが変わって、変わらなければならないと思った。
けれどどんなに変わろうと思っても、気付けばHAYATOのように唄っている自分がいて。
そうではないのだ。
HAYATOではない、一ノ瀬トキヤとして唄いたいのに、いつの間にかHAYATOになってしまっていて。
気付いたときに絶望した。
唄うために早乙女と契約してこの学校に入ったのに、結局HAYATOがなければ唄えないと気付いて、頭がおかしくなりそうだった。
そんな自分を否定して、一ノ瀬トキヤになりたいのに、出来ないのだ。
どんなに唄っても、どんなに変わりたくても。
HAYATOは自分なのに、HAYATOにトキヤが埋もれている。
いっそ開き直れたなら楽だったのかもしれない。
どちらも自分なのだから、どちらでも関係ないのだと思えたら、それがよかった。
けれど開き直るにはトキヤのプライドは高く、コンプレックスは大きくなりすぎていた。

どうしたらいいのかわからないままに唄い続けていたところに突然現れたのがだった。
入学して一番最初のペアになり、その後も何度かペアを組んだ相手。
教師陣も文句なしに褒めるほど素晴らしい曲を作り、歌詞もセンス溢れるものを書く、まさに天才だった。
確かにが最初に作った曲を唄ったときは感動した。
彼女が作る唄なら、どんな世界にも立ち向かえるような、そんな気にさえなった。そうするには、自分の歌唱力が足りていないと自覚してしまったけれど。

何故がこんなにも怒っているのか、トキヤにはわからなかった。
には才能がある。
クラスを落とされるような自分など相手にせず、もっとうまく唄える誰かを相手にしていればいいではないか。
わからない。
どうして、彼女がこんなに怒っているのか――そして、悔しそうな顔をしているのか。
「・・・私には才能がありません」
「・・・・・・・・・」
「どんなに努力しても、変われませんでした。あなたの云う通り、辞めてしまうのがいいのかもしれませんね」

そう、自嘲気味に笑ったトキヤを見て。
は、カッとなって叫んだ。

「ふざけないで!!!」

は知っている。
トキヤに才能がないなんて、嘘だ。
才能がなければ、あんな唄は唄えなかったはずだ。
どんなに変わってしまおうと、を感動させた『七色のコンパス』を唄ったのは彼なのだから。

「本当はわかってるんでしょ!? どうして自分が唄えないのか、わかってるんでしょ!!?」

心底悔しかった。
才能がないわけがないのに。

「唄えるくせに、どうして唄わないの!!?」

人を感動させる、希望になり得る唄を唄いたくてこの学校の門を叩いたには、喉が手が出るほどに欲しい才能だ。
きっと努力したって手に入るものではない、天性のもの。
それに彼は蓋をしてしまっている。

「私はあんたがトキヤだろうとHAYATOだろうとどっちでもいいのよ! あんたの唄は、あんただけのものでしょう!!?」
「!?」
「私が欲しいものを持ってるくせに、それを腐らせるなんて絶対に許さない!!!」

叫んで、は踵を返した。
これ以上は自分が泣き出してしまいそうだと思ったのだ。
何より、トキヤが。

―――泣き出しそうな顔を、していたから。

違う。
傷付けたいわけではなかった。
酷いことを云った自覚はあるが、彼を傷つけるための言葉だったわけではないのだ。
ただ、知ってほしかった。
彼の唄を求めている誰かがいることを、知ってほしかった。

呆然とするトキヤを置いてきぼりにし、は走って自室に戻った。
このまま図書室に行って春歌にでも会ったら八つ当たりをしてしまいそうで、今は知り合いには誰にも会いたくなかった。
しばらく自分の心に生まれてしまった罪悪感と焦燥感を抱きながらベッドに転がった後、ガバリと飛び起きてシャワーを浴びる。
冷たい水のシャワーで頭を冷やしてから、両頬をパチンと叩いて気合を入れて机に向かった。

書こう。
彼のための唄を。
彼が唄える唄を、自分が書けばいい。



目前に、夏合宿が迫っていた。





To be next


20120707

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