Dear My Star
幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。
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書いた順番にアップしているので、そのうち時系列ごちゃごちゃになることうけあいですが、とりあえず1ということで
春ちゃん友ちゃんかわええ
春ちゃん友ちゃんかわええ
Dear My Star番外編
突撃、隣に晩御飯
料理がストレス発散に一役買っていると気付いたのは随分と前のことで、中学に上がったのを機に一人暮らしを始めて以来、冴はどんなに忙しくても週に一度は自宅で食事を作っていた。
最初のころは失敗も多かったが、最近ではレシピなしでも大抵のものは作れるようになったし、材料と時間が許せば難しい料理にも挑戦することも少なくなかった。
冴は今、無性に料理がしたくて堪らない衝動に駆られている。
ではストレスが溜まっていたのかと問われれば若干答えに窮するが、ではまったくのストレスレスなのかと云えば答えは否で。
そういうわけで、念願の早乙女学園に入学して荷物の整理も終わった冴は早速料理に取り掛かっていた。
しかし実はひとり分の料理を作るというのは意外とせせこましく、面倒くさい。
どうせなら多めに作って冷凍保存して後日食べるにしてもいいのだが、考えてみたらここは寮だ。今まで実家暮らしで食事に困ることなどなかったような生徒ばかりなのではないだろうか。
そして冴は閃いた。
―――たくさん作っておすそ分けしよう。
今までのように事務所の同僚や先輩たちにふるまうことは出来ないが、ここにはきっと手料理に飢えた欠食児童がわんさかいる。
そうと決まれば腕がなるもので、手際よく肉じゃがとほうれん草の白和えと厚焼き玉子を作った冴は、とりあえず隣の部屋を訪れることにした。
汝、隣人を愛せよ。
キリスト教ではないしこれは戦争を無くすための教えらしいが、そんなこと冴の知ったことではなかった。
それはともかくとして、この階は女子生徒のフロアだから当然隣は女子生徒で、冴の部屋は角部屋だったから必然的にお隣さんはひとつしかない。
タッパーに詰めた料理をもって部屋を出、すぐ隣の部屋の表札を確認する。
七海春歌、渋谷友千香。
初めて見る名前ということは同じクラスではないらしいが、一応同じ学校に通っているのだし、そんなに不審には思われないだろう。眼鏡に三つ編みは地味ではあっても不審者には見えないはずだ。そう願いたい。仮にもアイドルが不審者に間違われたなど、きっと一生云えないことだから。
閑話休題。
――コンコン
軽くノックをすると、はぁい、という可愛らしい声とぱたぱたと扉に向かって走ってくる音が聞こえた。
「はい、えっと、どちら様でしょう?」
そっと扉を開けて顔を覗かせたのは、肩の上で綺麗に切りそろえられた明るい髪と愛らしい顔をした女の子だった。
この学校は特に年齢制限をしているわけではないから、中学を卒業していれば――いや、もしかしたら才能さえあれば小学生だろうと入学出来るかも知れない。だからいまいち年齢の見当はつかなかったが、なんとなく年下だろうと冴は思った。
女子にしては若干背の高い冴を上目遣いに見る女の子ににっこりと微笑み、冴はタッパーを指さした。
「私、隣の部屋の各務冴。よかったら、これ食べない? たくさん作ったから、おすそ分け」
「あ、私は七海春歌です。いいんですか? 実はご飯まだだったんです」
まだ暖かいままの容器を渡すと、春歌は嬉しそうに笑った。笑顔がなんとも可愛らしく、小動物のようだと思った。もしアイドルコースだったらいつかこの子のためにも唄を作ってみたいと思いつつ、春歌が呼んだ同室のもう一人にも簡単に自己紹介をする。
赤い髪をふわりとさせた綺麗な顔立ちの、奥から現れたのが友千香だった。料理の入ったタッパーを見、自己紹介をするとパッと嬉しそうに眼を輝かせた。
「肉じゃがとほうれん草の白和えと厚焼き玉子。口に合えばいいんだけど」
「やったぁ、お腹ペコペコだったんだー!」
「ご飯、足りなかったら云ってくれればまだあるからね」
「ありがとうございます!」
友千香は春歌とはまた違った種類で可愛らしく、勝気な笑顔と男勝りな言動は素直に魅力的だと思った。
目的も果たしたことだし部屋に戻ろうと、じゃあと云いかけた冴だったが、しかしパチンと両手を叩き口を開いた友千香に遮られ、思わず口を噤んでしまう。
「ねぇ、冴もまだなら一緒に食べない?」
「や、私は・・・」
遠慮するわ、という言葉も続けられなかった。
今度は春歌である。
「いい考えですね!」
準備しますね、と微笑んで部屋に入ってしまった春歌と、さぁさぁ入ってと友千香に腕を引かれ、あれよあれよという間に冴は2人と食卓を囲んでいた。
おかしい。
当初の予定では料理を渡してさっさと退散していつものように一人で食事をするつもりだったのに。
食べ終わったらトランプやらファッション誌を囲んで談笑などせず、作曲に勤しんでいるはずだったのに。
気付けば春歌と友千香の部屋で一応の就寝時間を迎えてしまい、Aクラスだというふたりとは明日の昼も食堂で一緒に食事をする約束をして冴は部屋に戻ってきていた。
おかしい。
こんな予定では。
―――でも。
「・・・たまには、悪くないかも」
冴が芸能界に入ったのは随分と幼いころからで、小学校に入ってからは子役としてドラマや舞台で仕事をしていたし、アイドルとしてデビューしてからは唄に踊りにテレビやラジオにレッスンと、随分と忙しい毎日を送っていた。
充実していたと思う。
仕事には恵まれ、同僚も優しく、ライバルたちとも切磋琢磨しながら日々を過ごしていた。
けれど、それはあくまで『仕事』なのであって。
それは、『早乙女まどか』のものであって。
自分自身が早乙女まどかであることはわかっていても、各務冴としては友人もなく頼れる人など一握りしかいない状況なのだ。
家にいるときだけが、各務冴。
一歩自分の部屋から出てしまえば、それは早乙女まどか。
演じているのは自分なのに、時折ひどい圧迫感に苛まれることがある。
本当は、各務冴など存在しないのではないか。
早乙女まどかが本当の自分で、各務冴こそが作り物のキャラクターなのではないか。
そう思ってしまうことがある。
馬鹿々々しいと思う。
どちらも自分なのに。
どちらも自分であることに変わりはないのに。
だから、嬉しかった。
ここでは冴は各務冴だ。
その冴に、友人が出来て、普通の学生のように楽しく笑って学校生活を送れる。
楽しむために学生になりたかったわけではないが、これはこれでいいかもしれなかった。
ただ闇雲に目標を追いかけるだけでは、きっと疲れてしまう。
友千香はアイドルコースらしいが、春歌は同じ作曲家コースだし、お互い良い影響を与えられればいいと思った。
すっかり片付いた部屋を見渡し、机に置かれた途中までの五線譜が目に入る。
途中で詰まってしまってその先が思うように書けずに放っておいたが、今なら書けるような気がした。
就寝時間はとっくに過ぎているが多少の無理なら利くし、何より春歌や友千香と接していたことで、気分がすっきりしていた。
熱いコーヒーを用意して机に向かう。
走らせた鉛筆は、いつまでも書いていたいと云っているようだった。
―――春歌、友千香。
―――これから一年、よろしくね。
20120703
突撃、隣に晩御飯
料理がストレス発散に一役買っていると気付いたのは随分と前のことで、中学に上がったのを機に一人暮らしを始めて以来、冴はどんなに忙しくても週に一度は自宅で食事を作っていた。
最初のころは失敗も多かったが、最近ではレシピなしでも大抵のものは作れるようになったし、材料と時間が許せば難しい料理にも挑戦することも少なくなかった。
冴は今、無性に料理がしたくて堪らない衝動に駆られている。
ではストレスが溜まっていたのかと問われれば若干答えに窮するが、ではまったくのストレスレスなのかと云えば答えは否で。
そういうわけで、念願の早乙女学園に入学して荷物の整理も終わった冴は早速料理に取り掛かっていた。
しかし実はひとり分の料理を作るというのは意外とせせこましく、面倒くさい。
どうせなら多めに作って冷凍保存して後日食べるにしてもいいのだが、考えてみたらここは寮だ。今まで実家暮らしで食事に困ることなどなかったような生徒ばかりなのではないだろうか。
そして冴は閃いた。
―――たくさん作っておすそ分けしよう。
今までのように事務所の同僚や先輩たちにふるまうことは出来ないが、ここにはきっと手料理に飢えた欠食児童がわんさかいる。
そうと決まれば腕がなるもので、手際よく肉じゃがとほうれん草の白和えと厚焼き玉子を作った冴は、とりあえず隣の部屋を訪れることにした。
汝、隣人を愛せよ。
キリスト教ではないしこれは戦争を無くすための教えらしいが、そんなこと冴の知ったことではなかった。
それはともかくとして、この階は女子生徒のフロアだから当然隣は女子生徒で、冴の部屋は角部屋だったから必然的にお隣さんはひとつしかない。
タッパーに詰めた料理をもって部屋を出、すぐ隣の部屋の表札を確認する。
七海春歌、渋谷友千香。
初めて見る名前ということは同じクラスではないらしいが、一応同じ学校に通っているのだし、そんなに不審には思われないだろう。眼鏡に三つ編みは地味ではあっても不審者には見えないはずだ。そう願いたい。仮にもアイドルが不審者に間違われたなど、きっと一生云えないことだから。
閑話休題。
――コンコン
軽くノックをすると、はぁい、という可愛らしい声とぱたぱたと扉に向かって走ってくる音が聞こえた。
「はい、えっと、どちら様でしょう?」
そっと扉を開けて顔を覗かせたのは、肩の上で綺麗に切りそろえられた明るい髪と愛らしい顔をした女の子だった。
この学校は特に年齢制限をしているわけではないから、中学を卒業していれば――いや、もしかしたら才能さえあれば小学生だろうと入学出来るかも知れない。だからいまいち年齢の見当はつかなかったが、なんとなく年下だろうと冴は思った。
女子にしては若干背の高い冴を上目遣いに見る女の子ににっこりと微笑み、冴はタッパーを指さした。
「私、隣の部屋の各務冴。よかったら、これ食べない? たくさん作ったから、おすそ分け」
「あ、私は七海春歌です。いいんですか? 実はご飯まだだったんです」
まだ暖かいままの容器を渡すと、春歌は嬉しそうに笑った。笑顔がなんとも可愛らしく、小動物のようだと思った。もしアイドルコースだったらいつかこの子のためにも唄を作ってみたいと思いつつ、春歌が呼んだ同室のもう一人にも簡単に自己紹介をする。
赤い髪をふわりとさせた綺麗な顔立ちの、奥から現れたのが友千香だった。料理の入ったタッパーを見、自己紹介をするとパッと嬉しそうに眼を輝かせた。
「肉じゃがとほうれん草の白和えと厚焼き玉子。口に合えばいいんだけど」
「やったぁ、お腹ペコペコだったんだー!」
「ご飯、足りなかったら云ってくれればまだあるからね」
「ありがとうございます!」
友千香は春歌とはまた違った種類で可愛らしく、勝気な笑顔と男勝りな言動は素直に魅力的だと思った。
目的も果たしたことだし部屋に戻ろうと、じゃあと云いかけた冴だったが、しかしパチンと両手を叩き口を開いた友千香に遮られ、思わず口を噤んでしまう。
「ねぇ、冴もまだなら一緒に食べない?」
「や、私は・・・」
遠慮するわ、という言葉も続けられなかった。
今度は春歌である。
「いい考えですね!」
準備しますね、と微笑んで部屋に入ってしまった春歌と、さぁさぁ入ってと友千香に腕を引かれ、あれよあれよという間に冴は2人と食卓を囲んでいた。
おかしい。
当初の予定では料理を渡してさっさと退散していつものように一人で食事をするつもりだったのに。
食べ終わったらトランプやらファッション誌を囲んで談笑などせず、作曲に勤しんでいるはずだったのに。
気付けば春歌と友千香の部屋で一応の就寝時間を迎えてしまい、Aクラスだというふたりとは明日の昼も食堂で一緒に食事をする約束をして冴は部屋に戻ってきていた。
おかしい。
こんな予定では。
―――でも。
「・・・たまには、悪くないかも」
冴が芸能界に入ったのは随分と幼いころからで、小学校に入ってからは子役としてドラマや舞台で仕事をしていたし、アイドルとしてデビューしてからは唄に踊りにテレビやラジオにレッスンと、随分と忙しい毎日を送っていた。
充実していたと思う。
仕事には恵まれ、同僚も優しく、ライバルたちとも切磋琢磨しながら日々を過ごしていた。
けれど、それはあくまで『仕事』なのであって。
それは、『早乙女まどか』のものであって。
自分自身が早乙女まどかであることはわかっていても、各務冴としては友人もなく頼れる人など一握りしかいない状況なのだ。
家にいるときだけが、各務冴。
一歩自分の部屋から出てしまえば、それは早乙女まどか。
演じているのは自分なのに、時折ひどい圧迫感に苛まれることがある。
本当は、各務冴など存在しないのではないか。
早乙女まどかが本当の自分で、各務冴こそが作り物のキャラクターなのではないか。
そう思ってしまうことがある。
馬鹿々々しいと思う。
どちらも自分なのに。
どちらも自分であることに変わりはないのに。
だから、嬉しかった。
ここでは冴は各務冴だ。
その冴に、友人が出来て、普通の学生のように楽しく笑って学校生活を送れる。
楽しむために学生になりたかったわけではないが、これはこれでいいかもしれなかった。
ただ闇雲に目標を追いかけるだけでは、きっと疲れてしまう。
友千香はアイドルコースらしいが、春歌は同じ作曲家コースだし、お互い良い影響を与えられればいいと思った。
すっかり片付いた部屋を見渡し、机に置かれた途中までの五線譜が目に入る。
途中で詰まってしまってその先が思うように書けずに放っておいたが、今なら書けるような気がした。
就寝時間はとっくに過ぎているが多少の無理なら利くし、何より春歌や友千香と接していたことで、気分がすっきりしていた。
熱いコーヒーを用意して机に向かう。
走らせた鉛筆は、いつまでも書いていたいと云っているようだった。
―――春歌、友千香。
―――これから一年、よろしくね。
20120703
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