Dear My Star
幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
はよレン様出したい
+++++
+++++
掲示板のクラス分け表を見て、冴は密かにガッツポーズをした。
Sクラス。
成績上位者のみを集めたエリートクラスだ。
試験の手ごたえはもちろんあったし、だからこそ冴はここにいる。
4月、上旬。
早乙女学園の入学式が、盛大に執り行われた。
Dear My Star
02.踏み出した一歩の先
入学して3か月、何事も問題なく、恙なく冴は日々の生活を送っていた。
課題は難しいものもあるがやりがいはあり、仲良くなった隣室の七海春歌や渋谷友千香とも協力し合って楽しくやっていた。
もともと大人数で一緒にいるような、いわゆる女の子の集団が苦手だった冴はいつも食堂の隅っこの席を探して食事を摂っていたのだが、冴手作りのお弁当の匂いにつられてやってきた来栖翔や一十木音也には何故か週一度お弁当を差し入れることになったり、さらにそれにつられてやってきた聖川真斗や四ノ宮那月に神宮寺レン、春歌に友千香も加え、いつの間にか冴の周りは賑やかになっていた。
もちろんいくら仲良くなったとはいえ、彼女たちが冴の正体に気付いた様子もない。
眼鏡と三つ編みがトレードマーク、周囲からはこんな学校にもかかわらず地味だと囁かれている冴が実は人気アイドル早乙女まどかであるなど、余程の発想力のある人物でなければ気付くことはないだろう。
ともかく、学校生活は順調だった。
―――ただ一つの問題を除いては。
「・・・信じられない」
放課後、冴は寮の自室に戻って扉を閉めると、呆然と呟いた。鞄が手から滑り落ちたがそんなことも気にならない。
SクラスからAクラスに異動になった人物がいる。
一之瀬トキヤだ。
人気アイドルHAYATOの双子の兄弟だということだったが、冴は直観で彼とHAYAYOが同一人物だと見抜いていた。
同じクラスで成績も均衡していたから自然とペアを組むことが多かったし、何より彼の唄声は一度聴いたら絶対に忘れない。
それに気付いていないらしい教師陣のほうが不思議だ。確かにHAYAYOとトキヤでは唄い方は全く違うが、声は同じだというのに。
わざわざ双子の兄弟と名乗っている以上黙っていたい理由があるのだろうが――彼の場合は冴と違い、そもそも所属事務所が違うのだから当たり前かもしれないが――、トキヤとHAYATOが同一人物ならば話が早かった。
冴の目標は『世界に愛され、万人の希望になり得る唄』を作り、唄うことだ。
最終的にはもちろん自分が唄うつもりだが、その前に誰かのためにそんな唄を作りたかった。
そして曲を作るとしても、唄い手も問題だ。
その肝心の唄い手として、冴が目を付けたのはHAYATOだった。
彼の歌手デビュー当時の唄は最近の軽い音楽とは違い、もっと心に響くものがあったし、何より声が魅力的だった。今のHAYATOの唄を否定するわけではないが昔ほどのインパクトはないし、云ってしまえば冴の好みではなくなった。
唄のせいなのか彼のモチベーションのせいかはわからないが、ともかく最近のHAYATOでは冴の考えるものを唄い上げることは出来ないだろう。
それは困る。
それでは困るのだ。
トキヤとHAYATOが同一人物だと気付いたときは素直に喜んだ。
事務所も違うのにこんなところにいる理由などは知らないが、これはチャンスだと冴は思った。
トキヤでもHAYATOでも、あの声の持ち主は同じだ。
だから同じクラスになって、担任の決めた課題のペアになったときはチャンスだと思った。
いきなり目標達成出来るのかと思ったのだ。
しかし、現実はそうはいかなかった。
トキヤは冴の作った曲を、ピッチもペースも何もかも完璧に唄い上げた。
だが、全然駄目だった。
試験結果は、冴は問題なく合格したがトキヤはギリギリの合格。
それについては担任の日向龍也の評価は正しかったと思う。
なんなのだ。
あの唄は一体なんだったのだ。
唄は単に唄えばいいのではない。
心が籠っていなければ、どんな名曲でも平凡以下になってしまうというのに。
いくら最近の曲は以前のようなヒットを出していないとはいえ、本当にこれがあのHAYATOなのだろうかと真剣に悩んだ。
冴は早乙女まどかとして何度かHAYATOと共演しており、少し前は歌番組でもよく顔を合わせていた。
一度聴いた音楽は絶対に忘れないし、絶対音感もあり、何よりこれだと思った人物の声を冴が忘れるはずがない。
だから彼はHAYATOで、HAYATOはトキヤのはずだ。
それなのにいつまで経っても彼は変わらなかった。
まるでHAYATOなどいなかったとでも云うように、彼を殺した唄い方を続けていた。
そうして今週になって、Aクラスへの異動だ。
ありえないと思う。
もし仮に彼が以前の唄い方を忘れ、学び直すためにこの学園に入学したとしよう。それならばこの3か月で全く変わらないなどありえないではないか。
一体何しに学校に通っているのかとわけもなく怒りがわいてくる。
アイドル業を休んでいる冴とは違い、トキヤはHAYATOとしての活動も続けている。
まさか気まぐれなのだろうか。
アイドル生活に刺激を求めてわざわざこんな二重生活を送っているのだとしたら、それは許せないことだった。
しかしその点に関しては冴も言及することなど出来ない。
じれったかった。
唄えるだけの実力を持っているくせに、どうしてそれを十分に生かさないのか。
余計なお世話だと云われてしまえばそれまでだが、冴にはどうしても納得できなかった。
HAYATOの唄う『七色のコンパス』は素晴らしかった。
歌詞も曲もそうだが、彼の唄声が何よりも美しく、心に響いてきた。
悔しいが、きっと自分があの唄を唄ったとしても彼ほど人を感動させることは出来ないだろうと冴はわかっていた。
それくらい、素晴らしかったのだ。
それなのに。
「・・・なんでよ、一之瀬トキヤ・・・・・・」
悔しい。
惜しい。
こんなことなら――自分が唄いたい。
そう考えて、ハッとして頭を振る。
違う。
今は誰かのために唄を作ろうと決めたのだ。
まだその時じゃない、自分のために作るのはいつだってできるのだから。
だから今は。
「・・・作るか」
今はただ、ひたすらに作ればいい。
思いつくものを思うままに、この曲が誰かを救えるように。
To be next
20120703
Sクラス。
成績上位者のみを集めたエリートクラスだ。
試験の手ごたえはもちろんあったし、だからこそ冴はここにいる。
4月、上旬。
早乙女学園の入学式が、盛大に執り行われた。
Dear My Star
02.踏み出した一歩の先
入学して3か月、何事も問題なく、恙なく冴は日々の生活を送っていた。
課題は難しいものもあるがやりがいはあり、仲良くなった隣室の七海春歌や渋谷友千香とも協力し合って楽しくやっていた。
もともと大人数で一緒にいるような、いわゆる女の子の集団が苦手だった冴はいつも食堂の隅っこの席を探して食事を摂っていたのだが、冴手作りのお弁当の匂いにつられてやってきた来栖翔や一十木音也には何故か週一度お弁当を差し入れることになったり、さらにそれにつられてやってきた聖川真斗や四ノ宮那月に神宮寺レン、春歌に友千香も加え、いつの間にか冴の周りは賑やかになっていた。
もちろんいくら仲良くなったとはいえ、彼女たちが冴の正体に気付いた様子もない。
眼鏡と三つ編みがトレードマーク、周囲からはこんな学校にもかかわらず地味だと囁かれている冴が実は人気アイドル早乙女まどかであるなど、余程の発想力のある人物でなければ気付くことはないだろう。
ともかく、学校生活は順調だった。
―――ただ一つの問題を除いては。
「・・・信じられない」
放課後、冴は寮の自室に戻って扉を閉めると、呆然と呟いた。鞄が手から滑り落ちたがそんなことも気にならない。
SクラスからAクラスに異動になった人物がいる。
一之瀬トキヤだ。
人気アイドルHAYATOの双子の兄弟だということだったが、冴は直観で彼とHAYAYOが同一人物だと見抜いていた。
同じクラスで成績も均衡していたから自然とペアを組むことが多かったし、何より彼の唄声は一度聴いたら絶対に忘れない。
それに気付いていないらしい教師陣のほうが不思議だ。確かにHAYAYOとトキヤでは唄い方は全く違うが、声は同じだというのに。
わざわざ双子の兄弟と名乗っている以上黙っていたい理由があるのだろうが――彼の場合は冴と違い、そもそも所属事務所が違うのだから当たり前かもしれないが――、トキヤとHAYATOが同一人物ならば話が早かった。
冴の目標は『世界に愛され、万人の希望になり得る唄』を作り、唄うことだ。
最終的にはもちろん自分が唄うつもりだが、その前に誰かのためにそんな唄を作りたかった。
そして曲を作るとしても、唄い手も問題だ。
その肝心の唄い手として、冴が目を付けたのはHAYATOだった。
彼の歌手デビュー当時の唄は最近の軽い音楽とは違い、もっと心に響くものがあったし、何より声が魅力的だった。今のHAYATOの唄を否定するわけではないが昔ほどのインパクトはないし、云ってしまえば冴の好みではなくなった。
唄のせいなのか彼のモチベーションのせいかはわからないが、ともかく最近のHAYATOでは冴の考えるものを唄い上げることは出来ないだろう。
それは困る。
それでは困るのだ。
トキヤとHAYATOが同一人物だと気付いたときは素直に喜んだ。
事務所も違うのにこんなところにいる理由などは知らないが、これはチャンスだと冴は思った。
トキヤでもHAYATOでも、あの声の持ち主は同じだ。
だから同じクラスになって、担任の決めた課題のペアになったときはチャンスだと思った。
いきなり目標達成出来るのかと思ったのだ。
しかし、現実はそうはいかなかった。
トキヤは冴の作った曲を、ピッチもペースも何もかも完璧に唄い上げた。
だが、全然駄目だった。
試験結果は、冴は問題なく合格したがトキヤはギリギリの合格。
それについては担任の日向龍也の評価は正しかったと思う。
なんなのだ。
あの唄は一体なんだったのだ。
唄は単に唄えばいいのではない。
心が籠っていなければ、どんな名曲でも平凡以下になってしまうというのに。
いくら最近の曲は以前のようなヒットを出していないとはいえ、本当にこれがあのHAYATOなのだろうかと真剣に悩んだ。
冴は早乙女まどかとして何度かHAYATOと共演しており、少し前は歌番組でもよく顔を合わせていた。
一度聴いた音楽は絶対に忘れないし、絶対音感もあり、何よりこれだと思った人物の声を冴が忘れるはずがない。
だから彼はHAYATOで、HAYATOはトキヤのはずだ。
それなのにいつまで経っても彼は変わらなかった。
まるでHAYATOなどいなかったとでも云うように、彼を殺した唄い方を続けていた。
そうして今週になって、Aクラスへの異動だ。
ありえないと思う。
もし仮に彼が以前の唄い方を忘れ、学び直すためにこの学園に入学したとしよう。それならばこの3か月で全く変わらないなどありえないではないか。
一体何しに学校に通っているのかとわけもなく怒りがわいてくる。
アイドル業を休んでいる冴とは違い、トキヤはHAYATOとしての活動も続けている。
まさか気まぐれなのだろうか。
アイドル生活に刺激を求めてわざわざこんな二重生活を送っているのだとしたら、それは許せないことだった。
しかしその点に関しては冴も言及することなど出来ない。
じれったかった。
唄えるだけの実力を持っているくせに、どうしてそれを十分に生かさないのか。
余計なお世話だと云われてしまえばそれまでだが、冴にはどうしても納得できなかった。
HAYATOの唄う『七色のコンパス』は素晴らしかった。
歌詞も曲もそうだが、彼の唄声が何よりも美しく、心に響いてきた。
悔しいが、きっと自分があの唄を唄ったとしても彼ほど人を感動させることは出来ないだろうと冴はわかっていた。
それくらい、素晴らしかったのだ。
それなのに。
「・・・なんでよ、一之瀬トキヤ・・・・・・」
悔しい。
惜しい。
こんなことなら――自分が唄いたい。
そう考えて、ハッとして頭を振る。
違う。
今は誰かのために唄を作ろうと決めたのだ。
まだその時じゃない、自分のために作るのはいつだってできるのだから。
だから今は。
「・・・作るか」
今はただ、ひたすらに作ればいい。
思いつくものを思うままに、この曲が誰かを救えるように。
To be next
20120703
PR