Dear My Star
幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。
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視聴覚室には開放日が設けてあって、その日は誰でも好きに使用していいことになってます。俺設定(ドヤァ)
なっちゃんに衝撃が走った日
+++++
なっちゃんに衝撃が走った日
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那月は時間があったので視聴覚室に向かった。
他のクラスの作品も聴いておきたいと思っていたが今まで時間が取れず、提出期限に余裕を持って課題を終わらせたのがついさっきのこと。同室の翔は課題に追われていたし、Aクラスは別の課題が出ていたから春歌も音也も真斗も忙しそうだった。
ひとりでは暇なので図書室にでも行こうかと思ったのだが、そういえば今日は視聴覚室の開放日だったことを思い出してくるりと方向転換した。
そっと扉を開けると、運よく誰もいなかった。
ご機嫌になって窓際で日当たりのいい席に座り、さっそく視聴を始めた。
液晶画面には曲の題名、歌い手の名前、作曲者の名前が表示されているが、あまり気にせず目を閉じて耳に集中する。
なるほど多くの生徒が在籍するだけあって、随分といろんな種類の曲があった。
どれが一番とは順位がつけがたく、どれも素晴らしいものばかりだった。
自分が唄うのはもちろん楽しくて好きだが、こうして聴いているのも勉強になるから学園のこのシステムはありがたいと思う。
やはりたまには他のクラスの音楽に触れるのは大事なことだな、と思いながら何気なく次の曲を流した瞬間、那月に衝撃が走った。
こんな曲は、初めてだった。
思わず息を飲み、聴き入る。
引き込まれるようなイントロから始まり、よく知った唄声が続く。慌てて画面を見ると、唄い手は翔だった。
唄よりダンスに力を入れていた翔は、バラードが苦手だと云っていたのではなかっただろうか。下手だとは云わないが、確かにバラードよりももう少しテンポの速めの唄のほうが翔には合っていると那月も思っていた。
しかしどうだ、これはバラードだ。
彼が苦手だ、出来れば唄いたくないと云っていたはずのバラードだ。
胸を締め付けられるような歌詞、切ないピアノのメロディ。ヴァイオリンの奏でる高音はまるで泣き声のようで、那月は息をするのも忘れて聴き入った。
いつもの翔と変わらない声なのに、唄い方がまったく違っていた。彼にこんな唄い方が出来るとは思わなかったし、自分よりもずっとうまい、とさえ思った。
曲が終わるまでの5分間、那月はただ呆然としていた。
すべて聴き終えてから放心状態で作曲者の名前を見ると、各務冴、とあった。
少し前に食堂で出会い、先日は手作り弁当をあやかったあの少女。眼鏡と三つ編みの印象は地味だったが、笑うと随分と可愛らしく、愛想もよかった彼女の名前ではないか。
那月は少なからず驚いた。
まだ先ほどの曲が頭の中に残っている。胸が熱くなる曲だった。
こんな素晴らしい曲を書く生徒がいるなんて、どこまですごい学校なのかと感動さえした。
―――唄ってみたい。
そう思った。
彼女の曲を、たった一曲聴いただけで那月はそう思った。
改めて画面に向かい、今度は作曲者で検索して冴の作った曲すべてを聴いた。
歌い手はすべてSクラスの生徒だから歌唱力はもとから高いはずだが、他の作曲者のものと冴が作った曲では明らかに違っていた。
これは冴の才能だった。
まだ入学して1か月も経っていないからそんなに曲数は多くないが、しかしどれも那月の胸を揺さぶる素晴らしい音楽だった。
イントロだけで冴の曲だとわかったし、BGMは映像がなくてもまざまざと脳裏に情景が浮かぶようなものばかりで。
―――唄いたい。
那月は改めて思う。
彼女の作った曲を、唄ってみたい。
同じAクラスに在籍する春歌の曲も素晴らしいものばかりだと思うし、彼女の曲を唄うのは彼女の実力を実感できた。
春歌の曲も、人を惹きつける力がある。
けれど冴の曲は、それ以上だ。
Sクラスにいれば授業中にも彼女とペアになる可能性はあっただろうが、残念ながら那月はAクラスだ。そうそうペアを組む機会などない。
―――卒業オーディションでもなければ。
考えて、息を飲む。
しかし一度思いついてしまった考えは払拭できず、彼女の曲をリピートしながら那月は考えた。
卒業オーディションで、冴とペアを組めたら。
多分、素晴らしい成績を残せるだろう。
そんな確信があった。
特に印象に残った、翔のバラードをリピートするのはもう何度目だろうか。
『どんな君でも愛し続けると この唄に想いを込めて』
サビの部分のこの歌詞が忘れられなかった。
どんな君でも。
どんな僕でも?
あの歌詞を向けられているのは自分じゃないはずなのにそんなことを考えてしまい、那月は小さく笑った。
馬鹿げている。
―――ああ、けれど。
今度彼女に会ったら、褒めてみよう。
そうして笑ってくれたら、いつか君の曲を唄いたいと云ってみよう。
どんな顔をするだろうか。
驚いたあと、笑ってくれるだろうか。
冴の曲を全部ダウンロードして保存してから、那月は視聴覚室をあとにした。
気付けば空は赤みを帯び始めており、随分長い時間聴いていたものだと自分に関心した。
そろそろ翔も部屋に戻っているだろうから、ちょっとだけ意地悪に接してやろうと思う。別に、冴と同じクラスで彼女の曲を唄う機会があってずるいからとかそういう理由ではない。断じて。
もっと彼女の曲を聴きたい。
頭の中で先ほどの曲を唄いながら、那月はふとそう思った。
なっちゃんはさっちゃんのこと覚えてないかもしれないけど、さっちゃんはなっちゃんの考えてることも全部知ってるから、だからこそ余計にあの言葉に囚われちゃったんじゃないかな、と思いつつ。
あ、別に歌詞は全部考えてはないのですが(笑) いつか全部書けたらいいなー
20120710
他のクラスの作品も聴いておきたいと思っていたが今まで時間が取れず、提出期限に余裕を持って課題を終わらせたのがついさっきのこと。同室の翔は課題に追われていたし、Aクラスは別の課題が出ていたから春歌も音也も真斗も忙しそうだった。
ひとりでは暇なので図書室にでも行こうかと思ったのだが、そういえば今日は視聴覚室の開放日だったことを思い出してくるりと方向転換した。
そっと扉を開けると、運よく誰もいなかった。
ご機嫌になって窓際で日当たりのいい席に座り、さっそく視聴を始めた。
液晶画面には曲の題名、歌い手の名前、作曲者の名前が表示されているが、あまり気にせず目を閉じて耳に集中する。
なるほど多くの生徒が在籍するだけあって、随分といろんな種類の曲があった。
どれが一番とは順位がつけがたく、どれも素晴らしいものばかりだった。
自分が唄うのはもちろん楽しくて好きだが、こうして聴いているのも勉強になるから学園のこのシステムはありがたいと思う。
やはりたまには他のクラスの音楽に触れるのは大事なことだな、と思いながら何気なく次の曲を流した瞬間、那月に衝撃が走った。
こんな曲は、初めてだった。
思わず息を飲み、聴き入る。
引き込まれるようなイントロから始まり、よく知った唄声が続く。慌てて画面を見ると、唄い手は翔だった。
唄よりダンスに力を入れていた翔は、バラードが苦手だと云っていたのではなかっただろうか。下手だとは云わないが、確かにバラードよりももう少しテンポの速めの唄のほうが翔には合っていると那月も思っていた。
しかしどうだ、これはバラードだ。
彼が苦手だ、出来れば唄いたくないと云っていたはずのバラードだ。
胸を締め付けられるような歌詞、切ないピアノのメロディ。ヴァイオリンの奏でる高音はまるで泣き声のようで、那月は息をするのも忘れて聴き入った。
いつもの翔と変わらない声なのに、唄い方がまったく違っていた。彼にこんな唄い方が出来るとは思わなかったし、自分よりもずっとうまい、とさえ思った。
曲が終わるまでの5分間、那月はただ呆然としていた。
すべて聴き終えてから放心状態で作曲者の名前を見ると、各務冴、とあった。
少し前に食堂で出会い、先日は手作り弁当をあやかったあの少女。眼鏡と三つ編みの印象は地味だったが、笑うと随分と可愛らしく、愛想もよかった彼女の名前ではないか。
那月は少なからず驚いた。
まだ先ほどの曲が頭の中に残っている。胸が熱くなる曲だった。
こんな素晴らしい曲を書く生徒がいるなんて、どこまですごい学校なのかと感動さえした。
―――唄ってみたい。
そう思った。
彼女の曲を、たった一曲聴いただけで那月はそう思った。
改めて画面に向かい、今度は作曲者で検索して冴の作った曲すべてを聴いた。
歌い手はすべてSクラスの生徒だから歌唱力はもとから高いはずだが、他の作曲者のものと冴が作った曲では明らかに違っていた。
これは冴の才能だった。
まだ入学して1か月も経っていないからそんなに曲数は多くないが、しかしどれも那月の胸を揺さぶる素晴らしい音楽だった。
イントロだけで冴の曲だとわかったし、BGMは映像がなくてもまざまざと脳裏に情景が浮かぶようなものばかりで。
―――唄いたい。
那月は改めて思う。
彼女の作った曲を、唄ってみたい。
同じAクラスに在籍する春歌の曲も素晴らしいものばかりだと思うし、彼女の曲を唄うのは彼女の実力を実感できた。
春歌の曲も、人を惹きつける力がある。
けれど冴の曲は、それ以上だ。
Sクラスにいれば授業中にも彼女とペアになる可能性はあっただろうが、残念ながら那月はAクラスだ。そうそうペアを組む機会などない。
―――卒業オーディションでもなければ。
考えて、息を飲む。
しかし一度思いついてしまった考えは払拭できず、彼女の曲をリピートしながら那月は考えた。
卒業オーディションで、冴とペアを組めたら。
多分、素晴らしい成績を残せるだろう。
そんな確信があった。
特に印象に残った、翔のバラードをリピートするのはもう何度目だろうか。
『どんな君でも愛し続けると この唄に想いを込めて』
サビの部分のこの歌詞が忘れられなかった。
どんな君でも。
どんな僕でも?
あの歌詞を向けられているのは自分じゃないはずなのにそんなことを考えてしまい、那月は小さく笑った。
馬鹿げている。
―――ああ、けれど。
今度彼女に会ったら、褒めてみよう。
そうして笑ってくれたら、いつか君の曲を唄いたいと云ってみよう。
どんな顔をするだろうか。
驚いたあと、笑ってくれるだろうか。
冴の曲を全部ダウンロードして保存してから、那月は視聴覚室をあとにした。
気付けば空は赤みを帯び始めており、随分長い時間聴いていたものだと自分に関心した。
そろそろ翔も部屋に戻っているだろうから、ちょっとだけ意地悪に接してやろうと思う。別に、冴と同じクラスで彼女の曲を唄う機会があってずるいからとかそういう理由ではない。断じて。
もっと彼女の曲を聴きたい。
頭の中で先ほどの曲を唄いながら、那月はふとそう思った。
なっちゃんはさっちゃんのこと覚えてないかもしれないけど、さっちゃんはなっちゃんの考えてることも全部知ってるから、だからこそ余計にあの言葉に囚われちゃったんじゃないかな、と思いつつ。
あ、別に歌詞は全部考えてはないのですが(笑) いつか全部書けたらいいなー
20120710
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