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Dear My Star

幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。

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急展開。



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ボタンを掛け間違えたのは一体誰だったのか、私たち家族は今でも知らずにいる。
あの瞬間までは確かに幸せだった。
父も、母も、自分も。
産まれてくる弟も含めて4人で、幸せいっぱいになるはずだった。

―――きっと、これは天罰なのだ。





Dear My Star

05.南の島で交錯する想い





暑い。
パラソルの下にいてもこんなに暑いのに、よくもまぁあんな太陽燦々な場所で遊べるものだ。
若いなぁ。そう歳は変わらないけれど。

まるで保護者のようにみんなが太陽の下で遊んでいる様子を眺めていたが、ふと隣の椅子に視線を移す。
そこには那月が長身を椅子に横たえていた。あちらに混ざらずここに残ることにしたらしい。そういえばさっきみんなを見送ったとき、那月の後姿は見つからなかったことを今更ながら思い出した。
「なっちゃんは行かなくていいの?」
「はい。ここでちゃんとのんびりしてるほうが、ずっと楽しいです」
にっこりと云う那月に、も思わず微笑んだ。那月にそう云ってもらえて嬉しくないはずがないのだ。

那月は今仲の良いメンバーの中でも唯一甘えられる存在と云っても過言ではなかった。
翔と音也はもう弟みたいなものだし、真斗は終始あの様子で落ち着いているから年下という気はしなくても甘える対象とはまた別だ。同い年であってもレンには甘えるなどという行為は絶対にしたくない。見返りに何を要求されるかわかったものではないからだ。
その点那月は温和で柔和、いつでもにこにこと微笑んでいて優しい。身長は高いが威圧感はなく、むしろ安心感さえ与えられる。翔と音也が弟なら、那月は兄のようだとは思った。
春歌のように小さくて可愛い、という条件からは外れるも、ちゃんはちゃんだから可愛い、と頭を撫でてくれるのが好きだった。
最近ではちょっと黒い部分にも気付いてしまって若干複雑だが、それでも那月がに優しいことに変わりはないのだ。

「ほーんと、なっちゃんは優しいねぇ。私がひとりにならないようにしてくれたんでしょ」
「そんなんじゃないですよ。実はちょっと、下心がありまして」
「下心?」
那月にこれほど似合わない言葉があるだろうか。
首を傾げて続きを促すと、那月は身体を起こして正面からに向き合う形になった。自然とも姿勢をただし、那月の言葉を待つ。
「はい。卒業オーディションのペアのことです」
にこにことした笑顔とは裏腹に、真剣な声音。

考えてみればこの合宿はそういう場なのだから誰かから誘われる可能性がなかったわけではなかったのだが、最近はトキヤのことを考えすぎていて、すっかりその可能性を失念していた。
「もしよかったら、僕のこと、考えてもらえませんか?」
「・・・なっちゃん」
那月の眼をじっと見つめても、とても冗談を云っているようには見えなかった。
「そうです。僕は春ちゃんの曲も好きですが、それ以上にちゃんの曲が好きです。ちゃんと一緒だったら、きっと結果を残せます」
「・・・・・・・・・」
ひとつひとつの言葉がの胸を揺さぶる。
自分が作った曲が好きだと云ってもらえるのは嬉しいことだ。
今まで何度も褒められた。翔にも、音也にも、真斗にも、レンにも、春歌にも、友千香にも。もちろん教師からのお墨付きだってもらっている。
けれど、那月の言葉はひどくの心に染み渡った。
暖かい言葉だった。

「それだけちゃんと伝えておきたくて。突然でごめんなさい」
「・・・ううん、ありがとう」
「考えてみてください。返事は、最終日までにもらえればいいので」
「・・・ん、わかった」
うまく表情を作れているかどうかわからなくて、思わずは俯いた。
思った以上に驚いている自分にも、驚いた。
「・・・飲み物、遅いですね。ちょっと見てきます」
小さく笑うと、那月はさっと立ち上がり食堂の方に歩いて行ってしまった。
気を遣ってくれたのだろう。
やはり、那月は優しい。
は少し自分が情けなくなって、自嘲気味に微笑んだ。

正直云って、那月に誘われるのは予想外だった。
那月はAクラスだし、春歌という存在がすぐ傍にいるのだ。だからてっきり、那月は春歌をペアに選ぶと思っていたからだ。

那月の後姿をぼんやりと眺めながら、は那月の言葉を頭の中で反芻する。
自分と一緒なら結果を残せると云ってくれた。
予想外だったから驚いたけれど、は自分がとても喜んでいることを自覚していた。
咄嗟に首を縦に振ることをしなかったのは、嬉しさだけで返事をするのは失礼になると思ったからで。
すぐに返事をしなくてもいいと云われたのは嬉しかったけれど、本当はすぐにでも返事が欲しかったはずだ。もし断られたら、期日までに他のペアを探さなければならないのだから。
それなのに那月は、最終日までに、と云った。
それはつまり、以外には考えていないということで。

嬉しかった。
泣きたくなるほど嬉しかった。
卒業オーディションは、もちろんにも重要だ。
いくら卒業後は早乙女まどかに戻って活動するとはいえ、学園で作曲家としての結果を残せなければ何のために我儘を云って学園に通ったのか意味がないものになってしまう。
そうならないためのペアが重要なのはもちろんで、その相手が那月なら、それはきっと素敵なことだった。

が今トキヤのことを気にかけているのは、彼の才能を殺したくないから。
折角持っているその素晴らしい才能を、こんなところで潰してほしくないからだ。
もしトキヤがデビュー出来たら、まどかとして一緒に唄えたら嬉しい。
それに早乙女にも他の誰にも話していない、学園に通うもう一つの理由のためにもトキヤには一刻も早く立ち直ってほしかった。
だから今は、トキヤを立ち直らせるための曲を作ることに夢中になっている。
けれどだからと云って、トキヤと卒業オーディションのペアになりたいなどとは考えたこともなかった。
ただ純粋に、彼には自由に唄って欲しい。
それだけだったのだ。

はゆっくりと立ち上がり、近くにあった桟橋に足を向けた。帽子をかぶるのを忘れてしまったが、そんなことはどうでもよかった。
長い髪が風に揺れ、太陽の光が冴の綺麗な髪を一層輝かせた。
やっと遊ぶ気になったのかと声をかけてくる翔に適当に返事をし、桟橋の先に座って水面をジッと見つめた。
レンがこちらを見ている気がしたが、何も云われていないし今はちょっかいをかける気分ではないので申し訳ないが気付かないふりをする。
ゆらゆらと、水面に映った自分の顔が揺らぐ。
情けない顔をしていると思う。こんなにすぐに感情を表に出してしまうなんて演技派アイドル失格だと思うが、今はただの各務だ。今くらい、と自分を甘やかすことにした。
眼を閉じると、波の音が耳に入って心地よい。
ふと脳裏に那月の顔と、言葉がよみがえる。

『僕のこと、考えてもらえませんか?』

まるで断られることを恐れているような、そんな声だった。
いつもふわふわと優しくて、を優しく包み込んでくれる那月のそんな声を聴きたくなかった。
嬉しかった。
今までにない優しさと安らぎを与えてくれる那月に、いつか恩返しが出来たらいいと思っていた。
それが、卒業オーディションという最高の舞台で返せたとしたら。
ゆっくりと眼を開ける。

―――の答えはもう、決まっていた。



ちゃーん!」
呼ばれて振り返れば、グラスを手にした那月がいつの間にか戻ってきていた。空いた方の手をに振って、いつもと同じ輝く笑顔を向けている。
きっと、が深く考え込んでしまわないように気を遣ってくれているのだろう。
本当は自分だって不安なくせに、那月はいつだってを優先して行動してくれる。

「飲み物、オーダーミスで遅れてたみたいです! こっちに置いておきますねー!」
「ありがとー!」
優しい那月に、この決断を早く伝えよう。
は立ち上がり、すぐにでも那月のもとに行こうとした。
しかし。

「―――へ?」

すべてがスローモーションに見えた。
傾いだ身体は、重力に逆らうことなく倒れていく。

自分が海に落ちていると気付いたのは、目の前に水が迫ってからのことだった。





―――バシャーン!!

何かが水に落ちる音に、全員が動きを止めた。音は桟橋の方から聞こえた。確かさっきがふらふらと歩いていったはずだ。
一瞬遅れて、那月が叫ぶ。

ちゃん!!!」

桟橋はボートを停泊させるためのものだ。つまり、ボートが座礁などしないように水深は深めになっている。
がカナヅチと云う話は聞いたことがないが、今は着ている服が着ている服だ。
日焼け防止のためにと着ていたマキシ丈のワンピースとカーディガンが水中でに有効に働くとは到底思えなかった。おそらく一瞬での動きを制限し、まとわりついたカーディガンを脱ぐことすらままならないだろう。
が転んだり躓いたりすることはあまりないので、恐らくしゃがんで水を眺めていたときにワンピースの裾が桟橋の何かに引っ掛かり、立ち上がったときに気付かず歩き出そうとしてバランスを崩したに違いない。
いっそワンピースが破けてしまえば転落することはなかっただろうに、丈夫な生地が災いしたようだ。

自分が、呼ばなければ。
彼女が帰ってくるまで待っていればよかった。

那月はを呼んだ自分を責めた。
もしがもっとゆっくりして自分の意思で立ち上がろうとしていれば、ワンピースがひっかかっていることに気付けたかもしれなかったのに。

ただ、の後姿を見たら声をかけたくて。
自分を見て欲しくて、声をかけた。

そのせいでは海に落ちてしまった。
気付けば那月は走り出していたが、途中で翔に遮られる。
「どいてください、翔ちゃん! ちゃんが!!」
「もう行ってる!!」
「え!?」
どういう意味だ、と翔を見て漸く自分が酷く取り乱していることに気付く。普段は自分が翔を宥めるほうなのに、今は立場が逆転してしまっていた。
小さな身体だが空手で鍛えられた腕は、ちょっとやそっとじゃ外せない。
じりじりしながら翔を見ると、翔は殊更ゆっくりと云った。

「もうレンが行ってる」



が海に落ちたとき、一番近くにいたのはレンだった。
友千香や翔や音也とビーチバレーをするわけでもなく、春歌と真斗ののんびり水泳に混じるわけでもなく、桟橋近くにただ浮き輪を持って浮いていた。
には太陽に当たりすぎて頭痛でも起こしたのではないかと云われたが、実際は違う。確かに日差しは痛いくらいだが、それくらいで体調を崩すようなやわな身体ではない。

原因は、だった。
普段は三つ編みで眼鏡という極めて地味な格好をしているが、可愛らしい水色のワンピースに身を包んで現れたのであまりにも驚いたのだ。
昔から可愛い人も美人も、老若男女見てきた。見飽きたと云ってもいいだろう。
そのレンが、の姿に見惚れた。
今世紀最大の間抜け面をさらしたとしても仕方ないくらいに、の姿に目を奪われてしまった。
まともに褒めることも出来ないほど言葉に詰まるなんて初めての経験で、非常に不愉快ではあるが肘鉄を見舞ってくれた真斗にはほんの少し感謝してもいいと思った。あれがなければいまだに惚けたままだったかもしれない。ありがとうなどとは死んでも云ってやらないが。

地味な格好をしていても、が整った顔をしているのは知っていた。肌は白くきめ細かいし、まつ毛も長く目はぱっちりと二重で。物腰も穏やかで――まぁ、口を開くと少々乱暴だが――何より笑顔が魅力的で。
地味なのに目を離せない、ある種独特の存在感に惹かれていたのも事実だ。

最初から気にはなっていた。
何故わざわざあからさまな地味な格好に徹するのか、興味があった。
自分の笑顔に靡かない女子を相手にするのも初めてだったし、女の子にパシリに使われたのも初めてだった。
気付けばいつの間にかの傍に寄っていたし、最近では例え呆れ顔であろうと自分を見てくれるのが嬉しいとも思い始めていた。

けれどきっと気のせいだと、自分に媚びない女子が珍しいから気になっているだけだと思うようにしていた矢先にあの可愛らしい姿を見せられて、もうどうしようもないと思った。

夢中になどなりたくない。
そう思う自分が心の奥に住み着いているのに、相反する気持ちが芽生えていることを嫌でも自覚した。
認めたくはない。
けれど、認めざるを得ない。
ずっと自分を騙してきたのに、たった一度違う姿を見ただけで、こんなにも。

遊ぶ気分ではなかったが、そのままの傍にいるのもぎくしゃくしてしまうので頭を冷やすために海に入っていたのだ。
しかし直後に後悔した。
那月がの隣にいる。
は那月には随分気を許しているように感じていたし、那月もを可愛がっていた。もしかしたら翔よりも。
その那月が、の傍にいる。
見たくなかったが、目を逸らすことも出来ずにふたりを見ていると、何やら真剣に話し始めた。
レンに読唇術の心得などないが、ペア、という言葉が出た気がしてハッとする。
もしかすると那月は、に卒業オーディションのペアの申し込んでいるのかもしれない。
が頷いた様子もないし那月が喜んだようでもないので、今はただペアの話をしただけで答えは保留になっているのだろうか。
那月が席を立ち、がひとりになってもレンはから目が離せなかった。
ふたりが本当にペアの話をしていたのかは定かではないが、断ってほしい、とレンは願った。
そして、出来るなら。

神様など信じていないから、この想いが通じたのかはわからない。
しかしふらりと立ち上がったが、桟橋に向かって歩いてくるのを見てレンはチャンスだと思った。
が桟橋の先まで来たら、何事もなかったかのように声をかけよう。
そうして、卒業オーディションのペアを申し込もう。
決めて、レンはがはやく桟橋の先に辿りつくのを待っていた。
自分の中にこんな打算的なものがあったなんて、と自嘲したが、今はなりふりなど構っていられない。

けれど。
が、真剣な顔で何かを考えていて。
何も云えなくなってしまった。

そして。
伏せていた目を再び開いたとき、瞳に宿っていた決意を読み取ってしまって。
レンは、が答えを決めてしまったことを悟った。

遅かったと、知った。

愕然としているとビーチから那月がを呼ぶ声が聞こえ、が立ち上がろうとしているときにワンピースの裾が桟橋に引っ掛かっていることに気付いたレンは冴を呼ぼうとした。

呼ぼうとして――出来なかった。

振り返ったが、那月を見ている。
自分ではない誰かを見ている。
この事実がレンを絶望させた。

レンがを止めていれば、は転落することはなかっただろう。
動きにくいまま冷たい海に放り出されることはなかったはずだ。
呼んだ那月のせいではない。
自分のせいだった。

気付けばレンは、浮き輪を投げ出してのもとへと向かっていた。





To be next


20120708

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