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Dear My Star

幸せになろう。 僕らが出逢ったのは、きっとそのためだから。

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翔くんの趣味がショッピングだというので



+++++

「買い物行こうぜ」
真顔で云った翔におとなしく頷いた自分が馬鹿だった。





Dear My Star番外編

親友と一緒





次の休みに朝早くから電車に乗り込んだと翔は、学園から随分離れた街まで買い物に来ていた。は別に近くの街で十分だと思っていたのだが、何故か場所だけは翔が頑なに譲らなかったのだ。
そもそも今日は翔の買い物に付き合うためだと思っていたので特に深くも考えず承諾したのだが思えばそれがそもそもの間違いだった。
翔が何を目的として買い物などと云いだしたのか、しっかり確認してから承諾すべきだったと気付いてもすでに後の祭り。

翔の本来の目的に気付いたときにはすでに店の入り口に足を踏み入れていて、小柄なくせに空手で鍛えられた逞しい腕でがっちりホールドされていた。
ふたりとも笑顔を崩さないままの攻防だったので、店員にはさぞ微笑ましいカップルに見えていただろう。しかし実態はお互い渾身の力を込めているのである。はどうにかして翔の腕から逃れようとしているし、翔は逃がさないようにうまく固めている。
それでも笑顔のままなのは、間違っても他人に痴話げんかをしているとは思われたくなかったからだ。おかげでもっと大きな誤解を生んでいることには残念ながら気付いていない。
「翔、私こういうのいらない」
「遠慮すんなよ、今日は俺に任せろ」
「なんて男らしい発言かしら。離せ」
「嫌だ」
これをすべて笑顔でかわしているのだから、仲の良いカップルだと思われても仕方ないだろう。それをツッこめる人物がいないのが残念だった。
イラッシャイマセーという店員のマニュアル挨拶に朗らかに笑顔を返し、未だ離されない手を外すタイミングを見計りつつは翔の足を思い切り踏みつけた。
そんな嫌がらせにも負けずに翔はずんずん進み、目当てのものの前で漸く立ち止まる。素早く目を走らせて、何点かハンガーを手に取って。
「よし。とりあえずこれとかどうだ」
「まぁ可愛い。翔くんに似合いそうね! きっとサイズもぴったりよ!」
「しばき倒すぞ。お前が着るんだよ」
「嫌」
「ひん剥くぞ」
「セクシャルハラスメント! 店員さん、事件です!!」
「あ、店員さんいいところに。こいつにこれ着せてやってください」
「かしこまりました~」
の悲鳴が響き渡った。

数分後。
シャッと開けられたカーテンの奥からまず顔を出したのは店員だった。何やらうきうきした顔でご満悦そうである。
「お待たせしました。とっても素敵に仕上がってますよ!」
彼氏さんはセンスがおありですね! というなんだか非常に聞きなれない魔法の呪文を聞いた気がしたが今は置いておくとして。
どうやら店員さんがノリノリになって髪型までいじっていたようで、なるほどだから妙に時間がかかったのかと納得する。しかし肝心のがまだ引っ込んだまま出てこない。
「おーい、ー」
「ころす・・・」
「お巡りさん呼んどくか?」
「セクハラ罪で捕まるがいい・・・!」
さすがにフィッティングルームの中に入っていくのはまずいと思い外で待っていたのだが、どうやらこれは遠慮している場合ではなさそうだ。
もう一人手伝っていた店員がぐいぐいとの腕を引っ張って外に出そうとしているが梃子でも動きそうにない。やけにハッスルしてくれている店員さんに視線で合図をし、名残惜しそうな顔をされたが出て行ってもらう。
ちょうどタイミングがよかったらしく他のフィッティングルームの使用者はいないし、非常に不可解だが彼氏と勘違いされているようだし入っても問題ないだろう。が騒いでもそれこそ痴話げんかだと思われれば通報はされまい。多分。
少し迷ってから、結局中に入ることにした。が悲鳴を上げないことを祈って。





そして翔が目にしたのは、まず後ろ姿だった。
畳2畳分ほどの広さの小部屋は左右に鏡が設置されていて正面には簡易な棚があった。動かせるタイプの姿見が一枚置いてあって、それを好きに動かしながらチェックが出来るという親切構造らしい。
はその唯一鏡のかかっていない壁に手をついて項垂れていた。
あの格好をどこかで見たことがある。
「猿軍団・・・!」
「歯ァ食いしばれ・・・」
地を這うような低い声で凄まれた。
確か小学校の遠足で某猿の名所に行ったときに某猿軍団の芸を見てその中にああいうやつがあったことを思い出して懐かしさのあまり若干興奮したのだが、そこは置いといて。
まぁ、女の子に対して猿はないわな。
「なんだよ、似合うじゃん」
これ以上云ったら本気で殴られそうな気がした翔は、ひとまず話を戻すことにした。はまだいわゆる『反省のポーズ』のままだったが気にしない。

まだ後ろ姿しか観られていないが、なかなかどうして似合うじゃないかと翔は思う。自分のセンスもよかったに違いない。
普段は大き目のカーディガンやら長めのスカートのせいでわかりにくいが、は元からプロポーションがいい。部屋に遊びに行ったときの私服で確認しているから間違いないだろう。セクハラではない。
しかし、先日翔がの部屋に行ったときのの服装を見てふと思ったのだ。
―――地味。
そんなことは出会った当初から知っていたし、親友と呼ばれるまでになった今はが派手好きではなくどちらかと云うと落ち着いた雰囲気の格好が好きなのだとわかっている。
わかっているが。
折角の私服で、別に誰かに見せびらかすわけでもないのにそんなに地味な格好でいるのはつまらないではないか。
見せびらかさないからこそ地味でも構わないと思うのだが、翔は不満だった。
は絶対に着飾ったら可愛い。
女の子にしてはそこそこある身長も――自分より高いのは気に食わないが――、解けば長くストレートな髪も、実はすらりと長い手足も、凹凸のはっきりした身体も――セクハラではない。
絶対に、もったいない。
人は誰だって綺麗なものや可愛いものが好きだ。
翔だってそうである。
目の前に最高と思われる素材があるのに、おざなりに扱われているのがなんだかいっそ腹立たしかった。
そこで思いついたのが、今日の計画だ。
すなわち『服屋に連れてって強引に着せちゃおう』作戦である。安直である。
いくら仲がいいとはいえ冴の部屋でにファッションショーをやらせるわけにはいかないし、かといって翔が自分で買ってに渡したところで着てはくれないだろう。
考えた末の計画だった。何度も云うが、安直である。

日ごろから翔はにもっと明るい色のものを着ろとか髪をいじれとか云っていたので、も翔が少なからずそういう格好を望んでいることはわかっていた。
しかし何のために地味な格好に徹しているのか理由を考えると、いくら親友の望みでもおいそれと叶えてやるわけにはいかないわけで。
複雑な気分のままの日常を過ごしていたところで突然の翔の『買い物に行こう』という誘いに乗った自分が馬鹿だったのだ。
はまさに『反省のポーズ』で反省していた。翔の指摘もあながち間違いでもなかったわけである。
「うう・・・こんな馬鹿な・・・」
「いいじゃん、似合ってるぜ」
「ありがとう。お礼は渾身のアックスボンバーでいい?」
「プロレス技で照れを表現されるとか、ちょっと愛が重すぎる」
「愛とか!!!」
寒気がする、と思わず両手で身体を抱きしめるリアクションをとっても、翔からは後ろ姿しか見えていないので単に寒いのかと思われるだけだった。寒くねぇよ。

しかしは、翔にこの姿を見せてもいいものなのかと真剣に考える。
翔の選択は見事だと思う。普段あの地味な格好を貫いている冴に、ここまでの魅力を引き出せる服をイメージして実際に合わせられるファッションセンスには素直に感心した。
薄い水色のブラウスはボタンに沿ってレースがあしらわれており、肩の部分はふんわりと膨らんだ可愛らしい構造だ。腰の部分には嫌味にならない程度のリボンが結ばれているのがまた可愛い。
膝より少し上のスカートの色は紺だが、ところどころに白や深緑などのワンポイントな布が使われていてなんともお洒落である。
黒のレースタイツとベージュのショートブーツの合わせも、派手すぎず地味すぎずちょうどいい。
我ながら似合っていると思う。
だからこそ。
三つ編みはすでに解かれてしまったし、サイドにハーフアップでまとめられ、オプションで花飾りまでついている。しかもいつの間にか眼鏡も取っ払われていた。あたりを見回しても元からが着ていた服がたたんで置いてあるだけで眼鏡は見当たらない。
この店の店員はどんな教育をされているのかちょっと知りたくなってしまったである。いくら彼氏(仮)の依頼とはいえ嫌がる彼女(仮)の服を嬉々として脱がせ、流れるように服を着せ、ついに勝手に髪までいじりだす始末とは。
本気で断らなければ化粧までされていただろう。後ろから大きな化粧箱を取り出したことに気付いてよかった。化粧まで本気でされたらいくらなんでも隠しきれる自信はない。
まどかのときはこれ以上ないほど高いテンションと圧倒的な笑顔、雰囲気で押しているところがあるから、普段のを嫌と云うほど知っている翔がまどかを連想することは考えにくいとは思う。
思うがしかし、あまりにハイリスクローリターンすぎて、決心がつかなかった。
背中にビシビシと伝わってくる期待大のオーラが痛かった。
「・・・着たんだし、もうよくない?」
「見たい」
「見せたくない」
ちゃんの! ちょっとイイトコ見てみたい!」
「5年後に出直せ未成年」
「お前もだろ。いいじゃん照れんなよー。俺とお前の仲だろー?」
だからだよ、とは云えなかった。
しかし、このまま膠着状態が続いていては帰ることも出来なさそうだ。今は幸い他の客が少ないようだが、あまり長時間フィッティングルームを占領するのもマナー違反だと思う。

考えること、数十秒。
更に大きく深呼吸をして。
漸くは、意を決した。
ええい、ままよ!





の姿を正面から見た翔は、軽く口笛を吹いた。
「おー、似合うじゃん!」
「アリガトウ」
「なんだその片言」
折角褒めてんのに、と口を尖らす翔に再び片言でありがとうと云いながら、内心はホッとしていた。
ばれていない。
それだけでもう似合うとか似合わないとかはどうでもよくなっていた。
ただしあんまりこの格好でいるのは得策とは思えない上に心臓に悪いので、とにかく早く着替えたくてしょうがない。
「やっぱ元はいいんだよなー、もったいねぇ」
そりゃあアイドルですから、とは思っても云えないことである。
手放しの賛辞にとりあえずお礼を述べてから、隅っこに置かれていた服を手に取る。
「もういい? 気は済んだ?」
「おう、済んだ済んだ。じゃ、それ買いな。すみませーん」
「は!? いらないわよ!」
この流れは一体なんだ。
しかも翔の様子を見るからに、自分で買え、ということではなく翔が買うつもりなのは明白だった。
だいたいこの服が総額でいくらになるかわかっているのだろうか。別にブランド物ではないので高すぎるということはないが、それなりの値段は張る。
まどかとしての稼ぎがあるにとっては取るに足らない額であることは否定しないが、普通の学生がひょいと買えてしまう値段ではないはずだ。
驚いてが叫ぶと、チッチッチと翔は指を振った。なんともイラつく行動である。
「お前なぁ、何のために俺がこんな遠くの店まで来たと思ってんの?」
「嫌がらせ」
「違ぇよ」
口を尖らせて云うと即座に否定された。違うんだ。
「この店のオーナー、俺の親父と知り合いなんだよ」

翔曰く。
ここはカジュアルな服を多く扱っている店だったが、本店はドレスの専門店らしい。ブライダル系も手広くやっているらしく、社員は全員メイクアップアーティストもしくはスタイリストとして働けるレベルの教育を施されているとか。
漸くは自分の着替えを手伝った店員たちに感じていた既視感の正体を知った。あれは仕事前に見る自分のメイクさんや衣装係の眼と同じだったのだ。いい素材を目にした時のああいう職業の人たちは得てして同じなんだな、と若干遠い目になった。
ともかくブライダル関係の仕事でそのオーナーと知り合ったという父親の伝手で、翔はこの店の系列店ではどこでも格安で服を手に入れることが出来るらしい。翔が着ている服も、ここではないが別の店舗のものが多いとか。確かに翔の服はお洒落だな、とは思っていたが、まさかは自分まで着せられるとは思ってもみなかった。

ちらりともう一度鏡を見る。
確かに可愛い。そして好みでもある。
数か月の付き合いでここまでぴったりの好みの服を看破するとは末恐ろしい、と思いつつ何故妙に納得も出来るから不思議だ。多分、元から根本の好みが似ているのだろう。考えてみれば翔の私服も割との好みに沿っている。
そして振り返れば期待に満ちた翔の視線にぶつかり、は思わず呻いて。
頭を抱える勢いで考えて、大きくため息を吐き出した。
「・・・わかった、これは買う」
「よっしゃ、むしろそのまま着て帰れよ!」
「嫌。っていうか、私が買うからね」
「は? なんで?」
きょとんと翔は首を傾げる。
本気でわかっていないらしい年下の親友に少しばかり呆れた。
「なんでじゃない。友達にこんな高いもの買わせるほど落ちてないわよ、私は」
だいたいこういうのは本物の恋人同士がやることだと思う。自慢じゃなくとも友達は少ないが、少ないがしかし男女の友達間でのやり取りではないということくらいはにでもわかる。
不満そうに、俺が勝手につれてきたのに、と漏らす翔にそういう問題じゃない、と断って。
「翔の気持ちは嬉しいから受け取るけど、これは駄目」
「ふーん・・・」
まだ不服そうである。
翔にしてみれば、最初から自分が買うつもりで連れ出したのだから自分が払って然るべきだと思うかもしれないが、それをよしと出来るほどは子どもでもなかった。自分が働いて稼いだ給料がある以上、何か特別な日とか特別な相手でなければ、ある程度以上の高価な物を与えられたくないのである。
かといって、じゃあ買って、と云えるはずもなく。
このまま引き下がってくれそうにもない翔を前に、が出した妥協案は。
「・・・じゃ、代わりに眼鏡買ってよ」
「眼鏡?」
「そ。お洒落眼鏡」
冴として三つ編みのほかにトレードマークになっている眼鏡は、実は適当に買ったもので特に愛着も何もない。いくつか持っていて不便なものでもないし、眼鏡くらいお洒落したところでバチは当たらないだろうと考えた末の案だった。
だからこれが却下されるともどうしたらいいのかわからなかったのだが、どうやら翔はそれで納得したらしい。
しばらく考えてから、完全に納得した様子ではないにしろ頷いた。
「・・・よし、じゃあ俺が選ぶ」
云って翔は眼鏡を探しにフィッティングルームを後にし、はいそいそと元の服に着替えた。
眼鏡はおそらく店員が持ち去ったはずなので問い詰めるとして、髪はもう面倒なので後ろで緩くひとまとめにするだけにした。これだけで随分印象が変わるが、この格好を見られても何も云われなかったのだから今更バレまい。正直もう普段から素顔でいてもばれないのでは、とも思ったが、そこは念のためという言葉があって。
アイドルとしてはいろいろ複雑な気分ではあったが、相手は翔だし、それにばれなかっただけで結果オーライと考えればまぁまぁ楽しかったのでよしとする。

結局は翔の選んだ服を自分で購入し、翔はに眼鏡をプレゼントした。さらには、眼鏡のお礼と称して翔に帽子をプレゼントしてこの日の買い物は無事終了したのである。
後日、お互いにプレゼントしたものを学校で着用しているのを見て真斗が一言。
「お前たち・・・どうして付き合ってないんだ?」
全員の代弁だったという。

どうしてって云われても恋愛禁止ですよ、とは何故か云えず、顔を見合わせて肩を竦めた。





LoveではなくLikeなのですよ
一緒に買い物させたかっただけでな、あんまり深い意味はなくてな・・・


20120719

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